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シリーズ:心の中のお線香
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心の中のお線香

作者:彩城あやと

  • 無料作品 有料作品:¥0(税込) R18
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    ある日、届いた一通のメール。
    それは俺の遠い記憶を呼び戻し、彼女を引きずり出した。
    恐怖とは、一体?


    登録ユーザー星:8 だれでも星:1 閲覧数:223

    心の中のお線香 6996文字

     

     夜も深々とふけて、蝦蟇(がま)が、やかましく語り始めた暑い夏の日。
     ふと、携帯を見れば、一通のメールが届いていた。
     知らないアドレスだ。登録もしていなければ、見覚えもない。
     それなのに、何故か。俺はそのメールを開いた。

    『美世子よ、久しぶり。
     突然だけど、心の中のお線香、覚えている?』

     覚えている。
     美世子も。心の中のお線香も。
     だが、どうやって美代子は俺のアドレスを知ったのか。疑問に思うまでもない。俺と美世子は小学の時、同級生だった。美世子が共通の友達から俺のメールアドレスを聞いたとしても不思議ではない。

     それにしても、狙いすましたかのようなタイミングのメールだ。
     俺が親父の仕事の都合で、この分譲マンションから引っ越したのは、小学校四年の時。その際、不動産と賃貸契約を結び、この分譲マンションの部屋を人手に貸していたのだが、契約も切れ、弟と共にこの分譲マンションに戻ってきたのは今日のことになる。
     今日、いや、引っ越しの片づけが終わった今のタイミングでなければ。
     俺は美世子も、心の中のお線香も、思いだそうだなどと、しなかっただろう。

     
     心の中のお線香。

     そうだ。あれは15年前。俺が小学四年生の時のことだ――――。


     雲が空をどんよりと覆い、夕闇というよりは宵闇に近いような、薄暗い下校時間。
     俺がランドセルを背負った瞬間、教壇の上に置いてあった鉛筆が、風もないのに、ころころと転がり――。
     ことん、と床に落ちた。

     教壇の周りには誰もいなかった。それなのに、鉛筆は落ちた。
     教壇が老化し、傾いている訳ではなさそうだった。
     教壇の上には、誰が置いたのか、まあるい形をしたサッカーボール型の消しゴムが、ぽつんと残っていた。

    「幽霊か」

     俺はそう口にした。
     幽霊なんて物理的に存在しない。だが、鉛筆が落ちた理由。それが見つからなかった。
     
     だから、きっと、幽霊が、鉛筆を、落としたのだろう。

    「けんちゃん」

     腕を掴まれた。
     美世子だ。美世子は同じ分譲マンションの25階に住んでいるが、女子としかつるまない大人しい子で、会話は交わすものの、一緒に遊んだ記憶は見つからない。
     俺の腕を掴む美世子の手に力がこもる。

    「けんちゃん、今日、うちに家に遊びに来て。相談があるの」

     何故、美世子はそんな真剣な眼差しで俺を見るのか。一瞬、聞こうかと思った。
     だが俺は口があまり達者なほうではない。だから何も聞かず、ただ、こくりと頷くことしか出来なかった。

     ――――ちりーん。
     
     一度家に帰ることもなく、俺は美世子の家に訪れた。
     仏間として使われている美世子の和室は仄(ほの)暗い。
     美代子か仏壇のお鈴(りん)を鳴らした。

     ――――ちりーん。

     線香のけむりが仄暗い闇をさまよい、すううと音もなく消えていく。

     ――――ちりーん。

     まだ新しい仏壇の中には、骨壷らしきものが収められている。
     二年前、事故で亡くなった美世子の両親のものだろう。

    「けんちゃん、この部屋に、私のお父さんと、お母さんは、いる?」

     ぐるり。部屋を見回した。
     死んだものが。肉体を失ったものが。この世にいるはずがない。
     俺は首を横に振った。

    「そう、やっぱりいないのね。私はずっと不思議だったの。おばあちゃんがね。毎日、お水を変えて、ご飯を入れて、お線香をあげて、お経を唱えるの。お父さんも、お母さんも、ここにはいないのに」

     死んだものが、肉体を失ったものが、この世にいるはずがない。当たり前のことだ。
     もし、亡くなった者が『いる』というならば、それは残された人の心の中に、だろう。

    「ベランダを視て」

     美世子がベランダを指さすので、からからと掃き出し窓を開けた。

     ベランダの角。どこからまぎれたのか、一枚の枯葉が、かさかさと、辺りを行ったり来たりしている。

    「けんちゃん、視えるのね?」

     何が?

     美世子を見れば、美世子は行ったり、来たり、している枯葉を見ている。いや、美世子の視線は枯葉から少しずれている。枯葉よりも右側を見ている。

    「あの白髪のおばあちゃん、ずっとああやって、床をぺたぺた叩いているの。ずっと。私が物心ついた時から、ずっと」

     美世子は、何を、見ている?
     白髪のおばあちゃんなど、いない。どこにも、いない。

     ただ――美世子の『ぺたぺた』と言ったリズムに合わせて、枯葉が行ったり、来たり、はしている。
     そう、そこにはまるで、美世子の言う白髪のおばあちゃんがぺたぺたと床を叩き、その風圧で、枯葉を行ったり、来たり、させているかのように。
     
     幽霊なんて物理的に存在しない。
     ただ。
     幽霊がそこにいる。そう脳が認識してしまえば――幽霊はそこに存在する。してしまう。
     だから美世子は幽霊を。白髪のおばあちゃんを、視ているのだ。
     だが。

    「俺には何も見えない」

     それが俺の現実だ。

    「じゃあ、けんちゃん、あれは?」

     美世子が指さす先、それはマンションの向かいにある信号機だった。ちょうど、青になる。車が走り出し、風が動いたように見えた。
     美世子を見れば、嫌そうな顔で眉をひそめている。

    「すごい声だね」

     すごい声? 誰の?

    「けんちゃん、視えないの? 聴こえないの? あの信号機に引っかかっている、つぶれて引き伸ばされたような大きな男の顔。信号が青に変わる瞬間、ものすごい悲鳴をあげたでしょう?」

    「何も。見えないし、聞こえなかった」

     だが、美世子は視えるのだ。聴こえるのだ。美世子が視える、聴こえる、と言うなら、美世子はこの世に存在しないはずのものを視ている。聴いている。

    「けんちゃん、廊下は? 廊下を這(は)う、手と顔しかない子供は? 視える?」

     美世子は不安そうに首をかしげた。いたって普通だ。異常さはない。普通にいる、おとなしそうなクラスメイトの顔だ。

    「見えない」

    「けんちゃん……視えないの? 死んだお父さんとお母さんがね。視えることを誰にも言っちゃいけないって私に言ったの。変に思われるからって。私、頭がおかしいのかな? 気が狂っているのかな?」

     誰もが見えないものを、美世子は視ている。不安に思って当然だろう。
     だが、柳の下の幽霊。
     美世子がそこに幽霊がいるというのなら、存在する。幽霊とはそんなものだ。
     だからこそ。
     美世子にしか視えない幽霊は、美世子自身が、祓(はら)うしかない。

     仏壇から香る。
     お線香が香る。

    「美世子」

     俺は仏壇を指さした。

    「幽霊を視たら、線香をあげるといいよ」

    「え?」

    「ああ、のべつのまなく視えるなら、心の中でお線香をイメージしてあげるといいよ。幽霊はきっと、美世子の心の中であげたお線香の香りを頼りに、あの世へと、渡っていくから」

     生きている人間の心の中にこそ、死んだ者は存在する。
     だから生きている人間はあの世とこの世を別けるのだ。死んだものがあたかも生き続けている、という錯覚を覚えるために。 
     だから美世子は、この世にいない者を、心の中のお線香を使って、あの世へと送り届ければならない。
     美世子が想うあの世は、美世子の心の中にしか、存在しないのだから。
     
    「心の中のお線香……?」

     美世子は不思議そうに首を傾(かし)げた。

    「ああ、それで美世子はこれから幽霊を視たとしても、祓えるようになるよ」

     俺がそう言うと、美世子は晴れ晴れとした顔で「ありがとう」と笑った。



     

     ――――それが、美世子と最後に会った日のことだった。
     次の日の朝。俺達家族は地方へと引っ越し、美世子とは、それきりになってしまっていたからだ。

     あれからもう、15年も経っている。
     美世子はまだ、幽霊を視て、いるのだろうか。

     俺は美世子からのメールに返信を打った。

    『心の中のお線香、まだあげてるのか?』

    『うん。あげているよ。
     ベランダにいた白髪のおばあちゃんはね。
     床を叩く代わりに、私の肩を叩くようになったの。
     信号機にいた、つぶれて引き伸ばされたような大きな男はね。
     私が心の中でお線香をあげるたびに、耳元でものすごい悲鳴をあげるようになったの。
     廊下を這っていた顔と手だけの子供はね。
     私の後をついて這(は)うようになったの。

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    作者紹介

    • 彩城あやと
    • 作品投稿数:76  累計獲得星数:736
    • 彩城あやと(さいじょう あやと)です。
      思いつくまま書いただけのお話を載せていますが、お気軽に楽しんでいただけると嬉しいです!


      Special thanks!
      アイコンデザイン☆ねこまんまさま
      一部分の扉絵、タイトル文字入れ☆菊市香さま

      ウッピーと小説家になろう以外のアカを忘れ、しかもアド変えたので自サイト含め、他サイトにログインできません(汗

      以前のメアド消滅してます。どうしましょう 汗


      TL長編[禁戒〜何も知らない神の子とぶきっちょな蜂蜜色の竜]をムーンライトさんで完結済み投稿しています。
      総文字数14万強ありますのでこちらのサイトと掛け持ちで管理ができず。ごめんなさい。
      お時間許すようでしたら、ぜひ遊びにいらして下さい↓
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      禁戒〜何も知らない神の子とぶきっちょな蜂蜜色の竜:https://novel18.syosetu.com/n1422fx/

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