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シリーズ:紫陽花少女
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紫陽花少女

作者:風呂助

  • 無料作品 有料作品:¥0(税込) R18
  • 編集協力者:

    記憶の太陽


    登録ユーザー星:5 だれでも星:0 閲覧数:1059

    紫陽花少女 1800文字

     

     梅雨に入ってからは縁側で、庭の紫陽花ばかりを眺めています。
    紫陽花というのは陽木で、縁起が良いのだとお爺様が植えたとか。
    私の名前に「シヨ」という、紫の陽。才媛と名付けたのも祖父。

     昔の、子供だった頃の話。紫陽花と私は姉妹でした。

     縁起担ぎで桃の樹もありますが、植える方向を間違えたらしく、
    東方に植えてあります。東の桃と桜は足を悪くするそうです。

     関係あるのかは私は知りませんが、生まれながら私の足が弱く
    歩くので精一杯。お医者様は気長に養生する他は無いとか。

     だから祖父が他界してから、とと様、はは様は桃を伐ろうと、
    考えたのですが、一度も花を咲かせない東の桃を紫陽花が横で、
    労わっているようで、梅雨という時期になると縁側に座って。

     足の良くない私は近所の子達と遊べませんでしたし、家の方は
    この辺では大店だそうで、手代さん、小僧さんも大勢いました。
    小僧さんなんかは、両親に言われて偶に私の遊び相手がてらにも
    奉公の忙しい時間を割いて、様子を見に来てくれました。

     でも私は、梅雨の間だけは誰とも遊ばなくても寂しくなくって
    あの桃と紫陽花を見るのが好きだったのです。だから、日頃では
    大人しい私が、ムキになって桃を伐る事に反対した時は、とと様
    はは様も驚いておいででした。特にお爺様が植えた樹でしたから
    結局は、こうして残って紫陽花と雨を浴びています。

     東南であれば桃は縁起が良いので、植え移すのも嫌かと言われ
    「紫陽花と離ればなれなのが、嫌です。」と答えました。それで
    両親も諦めました。お医者様は両親に縁起等ではなく、医学で、
    ちゃんと治りますから。と仰ってくださったので助かりました。

     けれども、東南に背の低い棗(ナツメ)が植えられました。

     その日、雨の縁側と湿気の温さ、初夏の風が混ざった中に私は
    庭に溶けてしまいたい気持ちで、普段の如く紫陽花を見ていると
    雨音しかしない庭で、桃の樹をスルスル降りてくる人がいます。

     見た目は高貴な衣冠をつけた、官人のような女性が桃の樹を、
    音もさせずに、静かに降りてきます。本来なら誰だろうとか、
    扮装した泥棒ではあるまいかとか、そのように思うのでしょう。

     でも私は、その高貴な女性が桃の枝を折らないで欲しくて、
    または滑って紫陽花を滅茶苦茶にしないでと祈っていました。

     そのような事はなく、雨の中で雨具も使わずに女性は桃の下に
    静かに立っていましたし、優しげな微笑だったので安心したのか
    私は樹にしないで紫陽花をみていました。葉に蝸牛がいました。

     高貴な雰囲気の女性は、蝸牛を手に取ると私の傍に来ました。
    縁側を上がって来る事はありませんでしたが、蝸牛を置いてから
    「でんでんむし。」と言ってから私に手を差し伸べました。

     私は蝸牛のように家にいたのですが、雨の庭へ手を曳かれては
    蝸牛のように足を苦にする事無く、水溜まりに静かに入りました。
    水蟷螂のような心持に、最も私は池や川を見たことがないけれど。

     気が付いたら沢山の紫陽花たち、その花弁の1つ1つに小さな
    小鬼が雨に踊っていて、雨蛙も混ざっていて。楽しそうです。

     女性は言いました。「行きましょう。」私は頷いてから自然に。
    極々自然に桃の樹を登って行きました。浮いているようでしたし、
    蛇になって巻きつきながら、塔を。そう話に聴いた浅草十二階を、
    廻りながら昇っているような気持ちになっていました。

     女性は樹の上を更に宙に舞ったので、ああ、天女様だと思って、
    私は先へも飛べませんし、足が弱いので降りることも出来ません。
    そのように言ったわけです。天女様は樹の一番上に1つだけの、
    桃の実を指差しました。

     とても甘くて、酸っぱくて、石のような味がしました。

     急激に沢山の紫陽花が羽のように、小さな小鳥か蝶の様に舞い、
    下から舞い上がって眩くなり。小鬼も蝸牛も雨も喜びました。
    私は仙界へいくのかもしれません。でも、とと様、はは様には
    心配掛けたくありませんし、悲しまれるのは辛いのです。

     すると、東南の棗の樹が言いました。

    「いつでも、戻って来れます。天女様の声もすぐに聴こえます。
    それまでは私がシヨさんの代わりをしましょう。」
    あれよあれよと、棗の樹は私そっくりに化けてしまいました。

     天女様は優しく静かに雨に濡れて、手を差し伸べました。
    私は紫陽花に乗って、どこかへ行ってしまったのです。
    そういうわけで、私は神隠しにあったのです。

     誰も気が付かないまま、梅雨が明けるまで。

     いつか夏の太陽が、下界を焼き尽くすまで。

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    コメント

    • コメント失礼します。私個人的にホラー大好きで、しかも雨もの関係も大好きでして…とても堪能しながら読ませていただきました…そしてファンタジー…とても興味深かったです^^
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    • ご訪問と恐悦至極にも嬉しいコメをありがとうございます!

      ホラーに雨って、とても似合う気がします!組み合わせも大事なのだと勉強になりました!

      こちらこそいつも、お作を拝読させて頂き、惹き込まれてしまいます!ありがとうございます!
      • 2 fav

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