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シリーズ:春が笑う 7
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春が笑う 7

作者:なつき

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    春が笑う 第7話です。


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    春が笑う 7 0文字

     

     帰路に着き、きれいに整頓された机の上に乱雑に荷物を置く。午前中はとても気分がよかった。
    なのに由布子が来て、指輪を嵌めてから、気分が重くなった。菱也は指輪を眺める。
    これがここに嵌められているというこの事実が、どうしても自分の中でしっくりこない。
    アクセサリー自体を身に付けたのが初めてだからか、それ以外の理由があるのか。
    どちらにしても違和感がすごい。菱也はため息をつく。そのとき、携帯が鳴った。
    「なんだ?」
    「なんだはないだろう。疲れているのか?」
     相手は広末だった。
    「ああ。忙しいのは事実だな。」
    「そうか、いや、春日ちゃんから聞いたんだ。おまえの仕事を手伝い始めたって。」
    「電話したのか?」
    「ん?いや、春日ちゃんからメールが来てさ。」
     菱也の知らないところで春日は広末に連絡している。当たり前のことなのに菱也はショックを受けた。
    「いじめないでくれよ?僕の未来の彼女に。」
     冗談なのか、本気なのか。広末の言うことすべてが腹立たしい。
    「・・・いじめなどしないさ。大切な戦力だ。」
    「まあ、お前は紳士だからな。それに社長室付きなら、変な男は近寄れないだろうし。安心できるよ。」
    「つまりお前は、尾山さんに虫がつかないようにこの俺に見張れと?」
    「はっはっー。まあ、そうゆうこと。意外と冨山とか、春日ちゃんのこと狙ったりしてないかな?」
    「冨山が?それはないな。あいつの好みは巨乳が大前提だからな。」
    「そりゃ新情報だ。じゃあ、よろしく頼むよ。また様子を見に行くよ。」
    「ああ、じゃあな。」
     電話を切った後、菱也は携帯を思い切りソファに投げつけた。
    よろしく頼む?なぜ俺が広末に春日のことを頼まれなくてはいけない?
    「かすが・・・、」
     下の名で呼ぶと、自分のものになったような気がしてくる。もう、はっきりと気付いてしまっていた。
    一目ぼれなんて、恋なんて、今までしたことがなかったから、認めるのが怖かったんだ。恋をした。
    困っているのを助けてやりたい。傍に置きたい。笑顔が見たい。
    「そんな資格など、ないのに・・・。」
     菱也は自分の指を見る。由布子との、婚約指輪・・・。それはあまりにも思い足枷だった。



     新年度を迎え、菱也の社長就任式も無事に終わった。
    「北京から戻ってずっと忙しかっただろう?少し休んで由布子さんとゆっくりしたらどうだ?」
    岩本会長の実妹の夫、神代秀二専務理事は菱也ににこやかに話しかけてきた。
    「そうですね・・・。私もそうしたいのですが、なにぶん、身辺が落ち着かないことにはなんとも・・・。」
     二人は社長室に入った。春日が頭を下げる。
    「おや、新しい秘書かね?」
    「データ処理のために庶務から派遣してもらっている尾山春日さんです。非常に優秀ですよ。」
     春日は菱也にほめられて、背中がかゆくなった。
    「尾山さん、去年の関東圏の私大顧客データ、すぐ出せるかな?」
     神代に頼まれ、春日はパソコンを操作した。
    「はい。出せます。メモリーでお渡ししましょうか?プリントもできますけれど・・・。」
    「はは、私は旧時代の人間だからね。プリントしてくれたらありがたいかな。」
    「わかりました、今すぐご用意いたします。」
     春日は自分の席に戻り、作業に取り掛かった。
    「では私がコーヒーでも、」
    「ああいいよ、富山君。すぐに失礼するから。」
     神代は優雅に微笑み、富山の動きを制した。
    「富山君も北京ではご苦労だったね。これからも影ながら社長のことを頼んだよ。」
    「恐縮です。お役に立てるよう、精進いたします。」
     富山は慇懃に頭を下げた。
    「しかしいくら優秀でも、社長付きが二人では心もとないだろう。もしよかったら、私のところから
    何人か秘書を寄越すが。どうだ?」
    「ありがとうございます。でもこれで今のところは事足りてますし、同じフロアに営業部がありますから。」
     菱也は神代の申し出をやんわりと断る。神代の秘書なんて、スパイ以外の何者でもないだろう。
    「そうか、まあ、必要ならいつでも言ってくれ。」
    「お心遣い、感謝します。」
    「あ、あの、資料、出来ました。」
     菱也と神代の間に、春日がおずおずと割り入る。
    「ああ、ありがとう。早いね、助かるよ。じゃあ、私はこれで失礼するよ。頑張って、菱也君。」
    「ありがとうございます。」
     菱也は頭を下げ、優雅に微笑んだ。その笑顔に、春日は違和感を覚えた。
     神代が退室した後、春日は菱也と富山にコーヒーを淹れた。
    「あの、社長、神代専務理事って、叔父様なんですよね?」
    「あぁ、そうだが?」
     おいしそうに春日の淹れたコーヒーを味わう菱也は、先ほどとは別人のようだった。
    「なんで、あんなに他人行儀っていうか、よそよそしいんですか?」
     春日の問いに、菱也は苦笑する。
    「身内でも、心が許せる相手とそうじゃない相手がいる。それだけのことだ。」
    「・・・?」
     わかるようなわからないような、菱也の答えに春日は困った顔をする。富山が口を挟む。
    「尾山さんも、専務理事の前では隙を見せないようにしてください。」
    「・・・はい。」
     それって、社長と専務理事は仲が良くないって、ことなんだよね?春日は春日なりに納得する。
    でも・・・。専務理事に向ける社長の笑顔は、品があって、隙が無くて・・・。いわゆる、
    完璧な作り笑いってこと?でもでも、あの笑顔は、由布子さんと一緒にいる時も、あの笑顔だよ・・・?
    社長・・・。
    「どうした?尾山くん。」
     うつむいて考え込んだ春日に、菱也は笑顔で声をかける。春日はその笑顔を見てはっとした。
    ・・・そうか、緊張してないんだ。わたしの前では、社長は自然体なんだ。なんて、優しい笑顔なんだろう。
    春日は胸が締め付けられる。由布子さんの、好きな人の前では、緊張するものね。・・・わたしは今も、
    緊張してる・・・。きっと、どうでもいい人間の前では、緊張なんてしないから・・・。
    「尾山くん?」
     菱也と、目が合う。涙が出そうになるのを必死で押さえ、春日は言葉を紡ぐ。
    「由布子さんが・・・、社長とあまり会えないって、メールで言ってました。」
    「・・・。」
     菱也の顔が凍りつく。
    「忙しくても、由布子さんとの時間は大事にしてください。結婚前の女性って、ナイーブなんですよ?
    知ってます?」
    「・・・由布子とメールを?」
    「はい。よくメールをくれます。」
    「そうか・・・。」
     そう言ったきり、菱也は黙り込んでしまった。
    「最近、お会いになってないんですか?お式の準備とかも大詰めなのでは?」
     富山も口を挟む。
    「・・・式や披露宴の準備は彼女に任せてある。ああいうのは女のセレモニーだからな。
    そのほうがいいと思って、」
    「ええっ!だめですよ、そんなの!愛する人との一生に一度の結婚式なのに!」
     思わず大声で叫んだ春日を、菱也と富山が驚いて見る。
    「だって、そんなの、寂しいです!ドレスだって、お料理だって、なんでも二人で決めたいじゃないですか!
    社長はそうじゃないんですか?」
     春日の真剣なまなざしから、菱也は逃れるように、目をそらす。
    「・・・人それぞれだよ。私は、・・・興味が無い。」
     なんて言ったらいいのか、菱也は言葉を選ぶ。しかし失敗したのだろう。
    春日は菱也の言葉に明らかに傷ついた顔をした。見ていられなかった。
    「休憩は終わりだ。業務に戻ってくれ。」
     菱也は席を立った。
    「・・・由布子さんが、かわいそう。」
     春日のつぶやきは、聞こえないふりをした。


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