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シリーズ:俺は何も悪い事なんてしていない
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俺は何も悪い事なんてしていない

作者:らのか

  • 無料作品 有料作品:¥0(税込) R18
  • 編集協力者:

    学生時代にいじめにあったことから、ゲイであることを周囲に隠しながら生きてきたサラリーマンの樋口。彼が出会ったのは、奇妙な集団生活を送る若者たちだった。バンドマンの俊、バックパッカーのタカユウ、アイドルオタクの翔太、引きこもりのヤギ。いわゆる世間のはみ出し者。そんな彼らを暖かく見守る大家夫妻。夫妻がこの生活をはじめるに至った秘密とは?  【性描写有】 【完結済】


    登録ユーザー星:11 だれでも星:49 閲覧数:2765

    俺は何も悪い事なんてしていない 57716文字

     

    東京の夜はひどく明るい。
    その明るさに惑わされて、夜更けなどまだまだ遠いように感じてしまう。
    しかし腕時計を見ると、時刻はまもなく二十三時半になろうとしていた。

    転職して来週で1ヶ月。多少の残業は覚悟していたが、こう連日になるとは思わなかった。三十路近くになりながらもこの職場ではまだ新人扱いの樋口誠は、残業を断れる立場にない。
    半年前にアパートの契約更新をしてばかりだったが、いっそ職場近くに引っ越そうかと疲れた頭でぼんやり考えた。


    前職を離れた理由は、おそらく本人以外誰も本当のことを知らない。
    職場の人間関係は良好だったし、セクハラやパワハラがあったわけでもない。それなりに大企業と呼ばれるだけあって、給料だって悪くはなかった。

    それは、本当にふとした上司の一言だったのだ。


    慌ただしかった第一四半期が終わり、プロジェクトが無事終了したことの宴席だった。
    酔いの回った部長の渡辺が、その赤ら顔を他事業部の部長である柿下に向けて言ったのだ。
    「お前んとこの女の子、結婚して辞めちまったんだって?残念だったなぁ、可愛い子だったのになぁ。」
    「彼女、9月に出産予定なんですよ。これからは家のことに専念したいと言ってね。」
    「出産?まだ入社2,3年じゃなかったか?」
    「23でしたね。」
    「はー、若いママさんだな。それに比べて、お前はいつになったら結婚するんだ?」
    「私のことは気にしないでくださいよ。」
    同じ部長職と言っても、その中でも上下関係はあるものだ。樋口は自身の上司である男の酒癖の悪さは知っていたので、柿下部長もかわいそうに、と部長達のビールをつぎ足しながら思った。
    「いいよなぁ、独り身は気が楽で。俺んとこなんて、長男が今年受験で嫁までピリピリしてやがる。こないだの日曜なんか、ゴルフに行くくらいなら模試の会場まで息子を送ってけって言うんだぜ?常務との約束なのに、遅れたらどうするんだっての。なぁ?」
    「奥さんからしたら、お子さんが一番ですからね。」
    「その息子もなぁ、最近とんと口をきいてくれなくなった。下の娘もだ。小さい時は可愛かったのになぁ。」
    「えぇ、昔写真出見せてもらったときは可愛らしいお坊ちゃんとお嬢ちゃんでした。」
    「だろう?だからな、お前も早く嫁さんみつけて可愛い子供の顔でもおがんでみろ。」
    「はは・・・相手が見つかればいいんですけどね。」
    「なんでぇ、お前なら相手くらいいるんじゃねぇのか?ん?」
    「まぁ、そのうちに。」
    「そう言っておめぇ、十年以上経つじゃねーか。さてはオカマか?」
    「違いますって。本当に縁がないんですよ。」
    「嘘ついてんじゃねぇだろうな?お前みたいな色男が、相手がいないなんておかしいと思ってたんだよ俺は。オカマだってなら、なんかわかるんだけどよ。なぁ?」
    ゲラゲラと笑いながら酒をあおる渡辺は、自身の部下の課長にまで同意を求めてきた。そうですね、と若干ろれつのあやしい課長は頷いた。
    酷い。酒の席の悪ふざけにしても、酷い。
    樋口は、自分の中で限界がきたと思った。
    「部長。呑みすぎではないですか。柿下部長もお困りですよ。」
    「おう、樋口。おめぇこそ呑んでるか?おめぇはいつも真面目なツラして、つまんねぇな。たまにははっちゃけろや。じゃねぇと、おめぇも柿下みたくなっちまうぞ。暗い男なんてモテねぇからなぁ。」
    その瞬間、樋口は思った。

    嗚呼、俺はこの人の下でもう仕事をしたくはない。

    自分自身が直接セクハラじみた言葉を言われたわけではない。所詮、酔っ払いの戯れ事にすぎない。
    それでも。
    結婚できない男をオカマだと笑い、それに対して他の人間にも同意を求める。
    そんな男の下でこの先仕事を続けることはできないと思った。
    そのうえ。

    もしも、自分が、ゲイだと上司にばれたら・・・・・・。

    それが何より怖ろしかった。


    自己都合の退社ということで、最初は上司にも何故だと問われた。
    他にやりたいことができたんです、と曖昧なことを言って、退職したのが2ヶ月前。
    大企業につとめる真面目なエンジニアという樋口は、この不況の中でも条件をこだわらなければ転職にはさほど困らなかった。

    その結果、かつての労務管理のしっかりしていた会社よりは残業も多くなった。
    電車の中は、先ほどの駅で人の流れはだいぶ変っており、扉の前が空いたのを樋口は見逃さなかった。
    ドアに背を預けるだけでも、ただ立っているよりも随分身体が楽だし、この場所をおさえておけば後々有利になる。
    通勤時間で読もうと思って鞄にしのばせている本は開く気さえ起きず、樋口はメガネを少し上に持ち上げこめかみをもみほぐした。
    12時間以上パソコン画面を見続けた目は、これ以上働きたくないと訴えていた。
    終点である新宿駅へ到着し扉が開くと、疲れた身体に鞭を打つように樋口は目の前の階段へ駆け込んだ。
    JRとの連絡改札に定期券をかざし、酔いの回った集団を避け、四番線のホームへと急いだ。


    構内にある弁当屋も本屋も既にシャッターが降り、前方にある電光掲示板さえも既に何も表示がされない状態になっているところがちらほらある。
    しかしそこにかろうじて自分の乗るべき電車の表示があることを確認すると、樋口はふう、と息を吐いた。

    (終電、なんとか間に合いそうだ)

    その瞬間のことだった。

    「わ!!」
    「うっ・・・・・!」

    ガシャン、と固い音が複数したかと思ったら、左の脛に衝撃を感じ、バランスを崩した。

    (何だ?自分は何につまずいたのか?いや、それよりも終電!)

    電光掲示板にばかり目がいって、足元を見ていなかったのは確かだ。
    しかしその足元を確認する余裕さえない。
    樋口はすぐさま身を起こし、兎にも角にもホームへと向かおうとした。
    ところが足元には何か伸縮性のある紐が絡まっている。
    一瞬では脱げずにいたら、そこへ黒くて細長い何かが眼前に迫っていた。
    「・・・っ!?」
    樋口は無意識に手で払った。どこかクッション性のある感触だ。
    それはかすかにビィンという音を立てて、地面へ落ちた。
    「あーーーっっ!!ギターが!!」
    「えっ!?」
    樋口は声の主を見た。

    細い眉毛。耳にはピアス。髪は金色、それも背に流れるほど長い。
    髑髏が描かれた黒地のTシャツに、ジーンズの横には銀色のチェーン。
    腕と右手の指にはごついアクセサリー。
    できれば関わりになりたくない風貌の、若い男だった。

    その男がこちらに振り向く。樋口はごくりと息をのんだ。

    (・・・・・・こんな時に絡まれるなんてゴメンだ!)

    「すみません!お怪我はありませんでしたか?」

    若い男から発せられたのは罵倒でも恐喝でもない、労りの言葉だった。

    「あ、え?ああ。大丈夫だ・・・・・・。そちらこそ、楽器は大丈夫か?」
    予想外に丁寧な男の言葉に、こちらも同じく無事を確認してしまった。
    「あーたぶん。ソフトケース入ってますから。どっちかっていうとエフェクターが・・・。」
    「エフェクター??」
    「あ、この黒いケースのことです。」
    そう言って若い男が指さしたのは、黒と銀色の固そうな四角い箱だった。
    「すみません、エフェクターケースとギターをキャリーにくくりつけてたんですけど、それが貴方の足元に絡まってしまったみたいで。ホント申し訳ないです。」
    「いや、大丈夫。じゃ、俺は先を急ぐから・・・・・・」
    と言いかけた刹那、無慈悲な一言が遠くから聞こえた。
    「四番線、ドアが閉まりマス。無理なご乗車おやめくださいー。はいーっ、閉まりマァス。」
    「・・・・・・・・・・・!!!!」
    樋口は固まった。
    「・・・・・・あ、も、もしかして、今の終電でした・・・?」
    金髪の男はギターを起こし、キャリーにエフェクターケースをくくりつけながら、おそるおそる聞いた。
    「やっちまった・・・・・・。」
    がくりと肩を落とす樋口は壊れたように小声でつぶやきはじめた。
    「大宮までならまだ電車は出てるだろうけど、そこから先はタクシーだよな。割増料金とられるし、そもそもタクシーに並ぶのがな。明日も仕事だし、このまま近くで夜を明かした方がいいか。せっかく今日で案件1コ片付いたのにな。昨日も一昨日も残業で終電だったんだ。1分でも早く家に帰って寝たかったのに、これは一体どういうことなんだ?俺なんか悪いことしたのか?」

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    コメント

    • 初めまして。
      タイトルに惹かれて読ませて頂きました。
      続き、愉しみにしています。
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    • お返事遅れまして申し訳ありません。お読みいただき、どうもありがとうございました。
      タイトルに惹かれてとのこと、ありがとうございます。
      もうすぐで完結ですので、またよろしくお願いします。
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    作者紹介

    • らのか
    • 作品投稿数:2  累計獲得星数:64
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