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シリーズ:ホチキス 或るアーティストの逃亡
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ホチキス 或るアーティストの逃亡

作者:太友豪

  • 無料作品 有料作品:¥0(税込) R18
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    ファンタジージュブナイルです。
    主人公ホチキスくんはアーティストという、特殊技能を持った人です。才能がないので『縫合術』という基礎的なことしか出来ません。
    将来、大陸中にその名を知られることになってしまうホチキスくんの最初の物語です。


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    ホチキス 或るアーティストの逃亡 0文字

     



     後の世に闇黒朝時代と呼ばれる頃のこと。
     湖のそばに佇む街ミロル。三方を山に囲まれ、東は湖に抑えられている。
     湖から立ち上る湿気を多く含んだ風は、夜になると急激に冷やされ、濃い霧となって街全体を包み込む。
     夜の街をミルク色に照らすガス灯は、この町の名物である。先代の領主が王都に次いで街全体にガス灯を導入した。
     そのための莫大な資金は、ミロルを拠点とするアーティストたちが収める寄付金から支払われた。
     アーティスト。
     闇に包まれた人間たちを導くための業を磨く者たち。
     ごく普通の生活を営む者たちからは、魔術師のように思われている。しかし、そのイメージとは裏腹に税金を収め、町の住民として義務を果たしている。
    「化け物退治、でありますか」
     首都から流れてきた若きアーティスト、ホチキスはミロルの住民として認めてもらうために街の自警団に加わるという選択をした。
     ミロルに根付くことを決めた若いアーティストの中には。ホチキスのような道を選ぶものもある。
     聞くところによれば、ホチキスがミロルに来る少し前から、異形の怪物が子供ばかりを狙ってさらうという事件が続いていた。
     住民たちの間には、あやしい出来事の裏には、たいていアーティストが絡んでいるという思い込みがある。
    (怖いなぁ……誰かを守るなんて無理だよなぁ)
     異なる生物の要素を強引につなぎ合わせるという技法は、アーティストの業の中でも基本的なものだ。
     また、ホチキスに唯一使える業でもある。東大最高峰の工房『ミスリル』に弟子入りしながらも、全く才能に恵まれなかった。仲間たちが次々と独立していく中、ホチキスは基礎の基礎である『縫合術』だけを持ってキロルへと流れ着いた。
    「お若いの、どうなされた?}
     カンテラを持った老人がホチキスを見下ろしている。やけに背の高い老人だ。背の低いホチキスからは、顔が逆光になっている。
     カンテラを掲げる老人の手は、町の住人とは思えぬほどに固くふしくれだっている。若いころの怪我が原因で、右足を引きずっている。
     アーティストの業の訓練中に何度となく死にかけたホチキスだが、運がいいことに後遺症が残ることはなかった。ホチキスにとっては、仕事のためにけがをするというのはとても恐ろしいことだ。
     いうまでもなく、アーティストにとっての業とは、生活の糧であると同時に酔狂でもある。そのことを忘れたアーティストは生涯一流にはなれない。
     もちろん、ホチキスはその心意気だけは持っている。伊達や酔狂でなければ、訓練を積めばほとんどの人間に使えるようになる『縫合術』だけを携えてアーティストを名乗ったりしない。
    「ほんとうにバケモノが現れたりするのでしょうか」
     だとしたら困る。アーティストは別に超人ではない。単純な暴力の前には、無力だ。バケモノが子供だけをさらうということで、それほど大型でも凶暴でもないだろいうという推測のもとに、、老人との二人組で森への探索に来たのだ。
     ミロルの三方を抑えこむような山。北側の斜面には鬱蒼と木が生い茂る森となっている。
     老人は若い頃、この森のキコリだったという。森に詳しいだろうということで、新参者の若いアーティストに同行してここまでやってきた。
     もともと体力のないホチキスは、すでに息を切らせ、時折足をもつれさせている。
     なれない夜道。木の根の絡みあう山道は、ホチキスから体力を根こそぎ奪っていく。
    「もう五人も殴り殺されているよ」
     ホチキスは老人の言葉を聞いて、胸中に小さな違和感を抱いた。
     殴り殺される。ホチキスが聞いていた話では、バケモノが子供をさらうということであった。殴り殺されるという話は聞いていない。
     そんな話を聞いていたら、老人と二人だけで夜の森を見回りに来たりしなかった。
    「ッ!――」
     ホチキスの視界が暗くなり、オレンジ色の火花が散った。後頭部に疼くような痛みを感じながら、ホチキスは膝から崩れ落ちた。
     ホチキスは自分を見下ろす老人と、その手に握られた棍棒を見つめながら、滝へ吸い込まれる木の葉のように意識を失った。
     暖かでカビ臭い空気。誰かがナイフを不器用に使って食事をしているような音が聞こえてくる。
     ホチキスは波に揺られる小舟の上で寝ているようなうねりを感じながらゆっくりとまぶたを開いた。
    「ようやく起きたか」
     老人が真っ黒なナタを片手に振り返る。
     一体何を切ればあのような色になるのだろうか。外ではなく、粗末な小屋か何かの中のようだ。オレンジ色のやわらかな光は、ランプかカンテラのたぐいだろう。
     ナイフが食器をこするような音が聞こえてきた。
     ホチキスは身体をロープで縛られ、床に転がされた状態のまま、顔を動かして音の発生源を探した。
     天井から吊るされたランプから、揺らいだオレンジ色の光が降り注いでいる。
     ところどころ黒く腐った壁板。ほぼ正方形の部屋にドアがひとつきりで、暖炉や窓がない。恐らくは長い間放置された物置小屋といったようなものだろう。
    「それは、なんですか」
     ホチキスの視線の先には、身体のほとんどをつやのある長毛で覆われた巨体の怪物がうずくまっていた。その頭部だけは、四、五歳の少女のものだ。
    「わしの孫娘じゃ……かわいそうに、先日右腕がもげてしまってのぅ。人間の子供の肉をやればうまくなるそうでの」
     少女の頭を備えた怪物の足元には、純白の部門本も散乱している。ホチキスはそれが何であるのかを悟ってそこから視線を逸らした。
    「ある御方のお陰で、流行病に侵されたこの子は助かったのじゃ。その命を、粗末にすることはできん」
     おそらく、その病は黄晶熱であろう。身体の至る所に黄色い結晶状の吹き出物ができ、一週間ほどの高熱の後に死ぬという風土病だ。特効薬はすでに創りだされているが効果で、ごく一部の特権階級にしかその恩恵に預かることができない。水晶状の吹き出物は、胴体だけに集中する。
     アーティストの『縫合術』で胴体をすげ替えてしまえば、治ったように見せかけるのは不可能ではない。何にしろ乱暴な話だ。違った生き物同士を『縫合』することは、難しいし、論理的にも奨励されないことになっている。
    「聞けばアーティストの肉はあの子の病気に良いと効く」
    「……なんてことだ」
     少女に対して『縫合術』を施したアーティストはそこそこ腕が良い人物であったようだが、生物同士の縫合は継続的に処置を続けても長期的生存は難しい。
     この少女の頭部を、本来の胴体に戻すことは難しい。そもそも、少女のもお供との身体は、もはや地上に存在していないだろう。
     生物、特に異なった種族同士の縫合するのが難しい理由は、種族ごとの感覚の差は、同種族の個体差をはるかに上回ることによる。
     自分の業を磨くために自らの身体に様々な生物の体を縫合し、ついには発狂に至ったアーティストの例は枚挙にいとまがない。
     この少女が人間としての理性を保っているのかは判別できない。まるで眠っているかのようにまぶたを閉じ、少しも身じろぎしない。
    「さあ、食事の時間だよ」
     老人は優しい声、しかしサーカス団の猛獣使いを思わせる手つきで、少女の顔を持つ怪物をたたき起こした。
    「――g……g……」
     少女の小さな口から、地響きを思わせる唸り声が響く。ホチキスは思わず床の上で身体を除けさせる。人間は個としては弱い生き物なのだと想い出させる野生むき出しの咆哮。
     怪物のはしばみ色の瞳には、理性の光はない。ホチキスは、そのことに安堵と恐怖の両方を同時に感じた。そうして、そんな自分に少しだけ嫌悪感を感じた。
     これから、一方的な暴力が行われることには変わりない。
     よく見れば、怪物の右腕はその付け根のあたりからなくなっている。骨や筋肉、神経などが濾出しているが、苦痛を感じている様子はない。
     怪物は日本の足と、残った一本を腕を使ってホチキスのそばにやって来た。ホチキスの胴回りよりも太い左腕を振り上げ、そのまま静止する。
    「――お前はわしがせっかく用意したものを!」
     老人はナタを振り上げ、怪物の右腕の付け根であった部分に叩きつける。神経の露出した部分に金属の分厚い刃をぶつけられた怪物は、たまらず悲鳴を上げる。

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    • 太友豪
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