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シリーズ:「まずはキスしよう、話はそれからだ」と彼は言った
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「まずはキスしよう、話はそれからだ」と彼は言った

作者:岡野 こみか

  • 無料作品 有料作品:¥0(税込) R18
  • 編集協力者:

    「まずはキスしよう、話はそれからだ」
    生徒会長の薔薇(そうび)は、突然百合(ゆり)にそう言った。
    子供の頃の思い出を胸に代筆屋をやっている百合は、ある手紙がきっかけで生徒会長から書記に任命されることになった。

    どこか困ったように笑う少女のイメージイラストを見て、何を言われてたのかと考えていたらこの台詞が浮かびました。
    彼女の右手にペンが見えました。
    そして百合の花言葉「あなたのは、偽れない」。

    頑張る子が好きなので、頑張る頑張るシンデレラのお話です。


    登録ユーザー星:7 だれでも星:2 閲覧数:410

    「まずはキスしよう、話はそれからだ」と彼は言った 26606文字

     

    1.「まずはキスしよう」


    「まずはキスしよう。話はそれからだ」

     机の前に立った男子生徒は私の右手を取ると、唐突にそう宣言しました。
     からん、からんと静まりかえった教室に取り落したペンが転がる音が響きます。
    「はい――?」
     私はというと、取り落したペンを拾うこともできずその顔を見上げ口をぽかんと開けるだけで、動作ごと思考を停止させてしまって。
    「じゃあ、そういうことで」
     私の沈黙をどう受け取ったのか、男子生徒の顔が私に接近して――

    (薔薇(そうび)さん……!)

     間近に迫った顔を見て、私はぐいっとその存在感に囚われてしまいました。
     拘束されてもいないのに、身動きが取れないかのように。
     透き通るような白い肌と見るだけでも柔らかそうな髪、花のように人目を引く美しい造形の顔、そして全身から満ち溢れる気品に裏打ちされた自信。
     教室に現れたその瞬間から、気付いていました。
     花圃 薔薇(はなぞの そうび)さん。
     この花圃学園の生徒会長にして代表的存在、そして私の目標の……
     その人が、何故私の目の前にいるのでしょう。
     何故、こんなにも顔が近いのでしょう。
     理解できないまま、私の脳内は疑問符で埋まっていきます。
     間近に迫った唇から吐く息がかかり、ふわりと華の香りが鼻腔をくすぐりました。
    「あ……」
     触れる。
     そう思った次の瞬間。

    「何、やってんですかー!?」
     ばちーん。
     壮絶な怒鳴り声と共に、響き渡る打撃音。
     気付けば薔薇さんの顔は、私の机に叩きつけられていました。
    「あー……」
     相変わらず呆然と固まっていた私の前に、一人の少女が立ちはだかりました。
    「重ねて問う。何を、やってんですか!」
    「あ、桜、さん」
     艶やかな黒髪を肩で切りそろえた上に細眼鏡を装備した、落ち着いた外見ながらも整った目鼻顔立ちが人目を引く少女。
     長髪で、よく言えばおっとり、正確にはぼーっとしている私とは対照的だとよく言われます。
     私の友人にしてたった今薔薇さんの頭を叩いた張本人、常葉 桜(ときわ さくら)さん。
    「いくら会長だからって、そんな暴挙が許されると思ってるの! あと百合ちゃんも少しは抵抗する!」
    「え、あ……ごめんなさい」
     眼鏡ごしの怒りの色を燃やした大きな瞳に見つめられ、やっと現状を理解した私は慌てて下を向きました。
     その前に、そっとペンを拾い上げ筆箱にしまってから。
    「説明は終わってるだろ? キスしよう。話はそれからだ、って」
     机から声がした。
     叩きつけられた顔を上げた薔薇さんでした。
     額が少し赤くなっているものの、やっぱりその顔の端正さは微塵も曇るところがありません。
     全く悪びれもせず私に手を伸ばします。
     私に――?
    「え? えぇ……?」
     一体全体、どういうことなのやら。
     解決していない目の前の問題から私を守るように、桜さんが私と薔薇さんの間に割って入ります。
    「話! 先に話をして下さい! ねえ百合ちゃん!」
    「あ……は、い。そうしていただけると、助かります……」
    「もっときっぱりはっきりと!」
    「お、お願いします!」
     相変わらず呆然としたままの私に溜息をつきながら、桜さんは薔薇さんを睨みつけます。
     戸惑う私の視線と桜さんの刺すような視線を受け、それでも薔薇さんは優雅に笑いました。
    「分かった。なら、単刀直入に言おう。更科 百合(さらしな ゆり)君」
    「はいっ」
     体を起こしこちらを見た薔薇さんに、私は慌てて背筋を正します。
     薔薇さんはひらりと紙を一枚取り出しました。
    「この手紙を筆記したのは、君?」
    「あ……は、はい!」
     その紙が目に入った瞬間、つい返事をしてしまいました。
    「あ、で、でも」
    「なら君に、生徒会書記を命ずる」
    「は……」
    「拒否権はない。いいかい?」
    「は、い……」
     きっぱりと言われ、思わず頷きます。
     拒否権はないと言われる前から、拒絶なんかできませんでした。
    「よし、話はこれで終わりだ。では」
     再び薔薇さんはこちらに身を乗り出してきました。
    「待って、待って待って待って!」
     そして再度桜さんに押し留められます。
    「話と行動が全く一致してませんよ!?」
    「僕は公私の区別ははっきりつける方なんだ」
    「……区別をつければ何やってもいいって訳じゃありませんっ!」
     桜さんの大声が教室に響きました。

    「ええと、つまり…… 会長は私とキスを、ご希望なのですか?」
    「そう」
     なんとか状況を纏めようとする私に、薔薇さんは悪びれない笑顔で頷きました。
    「何故……」
    「したいから」
    「ちなみに拒否権は」
    「するの?」
     ……駄目です。
     纏めてはみたものの、さっぱり意味が分かりません。
    「――ひとまず日を改めることにしようか」
     硬直したまま動かない私の様子を見た薔薇さんは肩を竦めました。
     その動作すら華麗に見えるのですから、恐ろしいものです。
    「そして業務連絡だ。明日放課後から、生徒会室に来るように。それでは失礼する」
    「は……い」
     言うが早いか、薔薇さんはこちらに背を向けて教室を出て行ったのです。

     ――まるで、嵐のような一時でした。

    「……何だったんでしょう……?」
    「何だったのよ、あれは!」
     一息ついた私と桜さんが同時に同じ感想を零します。
     がしり。
     私と顔を見合わせた桜さんは、私の肩を掴みました。
    「百合ちゃん……悪い事は言わない。あれは、止めておきなさい」
    「や、止めておけって……」
    「分かるよね?」
     桜さんはこちらの考えなどお見通しのように、鋭い視線を私に投げかけます。
     そう、きっと桜さんは知っているんでしょう。
     この花圃学園に入学してすぐに仲良くなった、一番の親友なのだから。
     私の気持ちを。
     さっきの一件のことを、薔薇さんのことを、私がどう思っていたのかを――

     そもそもの始まりは、薔薇さんなのですから。
     そして、あの手紙。
     薔薇さんがここに来る原因となった手紙。
     あれもまた、根本を辿れば薔薇さんに行きつくもので。

    「だいたいあの手紙って、アレよね? 何でちゃんと言わなかったの」
    「つい言いそびれて……明日、言いますから」
    「忘れちゃ駄目よ!」
    「はい!」
     桜さんの言葉に、大きく頷きました。
     まずは、薔薇さんに説明しなければ。
     薔薇さんがここに来る原因となったと思われるあの手紙。
     あれは、私が書いたものであって私のものではないと。


     私は、代筆屋をやっています。
     屋、といっても無償で、友人の仲介を中心にして、少しずつ依頼を請け負っているだけなのですが。
     主に、手紙の。
     メールやSNSが全盛期の今においても、この花圃学園内では手書きの手紙は大きな力を持っているのです。
    『8時から5時まで、授業以外でのネット接続禁止』
     そんな前時代的な校則がまかり通る学園内で、自然発生的に生まれてきたのが手紙の文化でした。
     携帯の発達のせいで常時連絡をとっていないと落ち着かなくなった生徒たちが手を出したのが、手紙の交換。
     授業中に回す小さな手紙から、靴箱に入れる真剣な手紙。
     購買に並ぶ余多の便箋が、学内で行き来する手紙の数を物語っていました。
     そして、やはり考えることは同じ。
     ――綺麗な字の、手紙を渡したい。

     きっかけは、桜さんでした。

    「いつも思ってたんだけど、百合ちゃんの字って……綺麗ねえ」
    「そうですか?」
     感心したように私のノートを覗きこむ桜さんに、私は思わず嬉しくなって微笑みます。
     小さい頃から一生懸命書き続けていた字。
     ですがこうやって友人に正面切って褒められたのは初めてで。
    「うん。本当に、いいな……字が綺麗な人って、羨ましい」
    「ん……」
    「そうだ」
     しみじみと私の手元を眺めていた桜さんは、はたと手を打ちました。
    「百合ちゃん、もしよかったらお願いがあるんだけど」
     桜さんが取り出したのは真っ白な便箋でした。
     今度引退する部活動の先輩に手紙を送るのですが、その文字を書いてもらえないかという依頼とともに。
    「……もしかして、恋文ですか?」
    「……な訳ないでしょ!」
     後輩一同の代表として桜さんが文章を考えたのですが、それをどう手紙に綴ろうか考えている最中だったということです。
     私でよければと桜さんから受け取った文章は、短いながらも心が籠っていて、丁寧に考えられたものでした。

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    コメント

    • すっきりした文章と牽引力のある展開で、とても読みやすかったです。登場人物も把握しやすく、好感がもてるものでした。ただ、彼らの長所やエピソードはよくわかるのですが、共感するにはすこし、人間臭い描写に欠けるきらいがある気がしました。プロっぽい無駄のすくない文章と達意と印象づけに優れている故だとは思うのですが、意図的に隙やゆとりを作ることで、緩急の緩が増えるとよりよいと思います。とはいえ、ですます調の珍しい主人公のモノローグで、一気に読ませるスピード感は素晴らしい手腕だと思いました。
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    • しかぞうさま、ご感想どうもありがとうございました。
      また、鋭いご指摘ありがとうございます。
      キャラクターの非人間臭さ、隙がないというのはたしかに自分でも思っていたことなので、こちらは課題だなぁと思っております。
      そしてですます調の女の子、好きなのです。
      最初は通常口調で書き始めたのですが(改稿の一番前)、しっくりこないので変更した途端ぐいんと書きやすくなりました。
      今回のイラストのイメージもそんな感じがしたのでこちらの口調を採用しました。
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    作者紹介

    • 岡野 こみか
    • 作品投稿数:26  累計獲得星数:240
    • 『ゼロコンマ』シリーズが4巻までRentaさん、パピレスさんから配信中!
      デスゲーム×BL小説『ビースト・ゲーム』も配信中です。
      これらが形になったのは、全て皆さんのおかげです!
      心から感謝させていただきます。
      これからも、もっと、色々書いていきたいなと思います。
      よろしくお願いします。

      文章書き、の端っこの端っこです。
      BLもラノベも、まだまだ初心者です。
      現在、クリエイティブRPG「三千世界のアバター」(http://s-avatar.jp/)にてゲームマスター(ライター)をやってます。←皆様のキャラの活躍を小説にしています。
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