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シリーズ:スイーツ文庫『花歌恋歌』
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スイーツ文庫『花歌恋歌』

作者:スイーツ文庫

  • 無料作品 有料作品:¥0(税込) R18
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    公園で甥に子守唄を歌っていた歌由は、九歳年下の大学生・来嶋と出会う。自分の歌声が綺麗だと言ってくれた彼に心惹かれるが――


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    スイーツ文庫『花歌恋歌』 71335文字

     

    「じゃあ、この近くに住んでるわけじゃないんですか」
    「いつもは、一人で……」
     どうして彼はこんなに色々と尋ねてくるのか。そのうえ歌由は押しにも弱いため、彼のペースに乗せられていつの間にか素直に答えてしまっている。
    「そうですか」
     来嶋はそう言うと、弁当等の空き容器を片付け始めた。歌由はほっとした。休憩時間が終わるのだろう。格好いい人ではあるが、やはり緊張はまだ解けない。
     だがそこで、彼は最後に歌由の眼を見て確認してきた。
    「また、ここに散歩来ますか?」
    「え? ええ。……多分、そのうち」
     怪しい人かもしれないと思うのに、もしかしたらいい人かもしれないとも思ってしまう。歌由は迷いつつも彼を避けるようなことは言わずに、正直に答えた。
    「俺もまだバイト続きますし、また会うこともあるかもしれませんね」
    「そうですね」
     そんなことを言われ、何やら胸がくすぐったくなる。だが不審な動きも見られなかったため、歌由はこの人懐っこい青年を「顔見知り」として記憶にインプットすることにした。
    「その時はまた、歌、聞かせてください」
     来嶋はそう言って笑うと、軽く手を上げて公園から去っていった。


     ――とくん、とくん。
     淡い春の日差しの下で、歌由の心が動き始めた。謎の青年の言葉に。まるで芽吹きの準備のように。
     ――どうして、そんなことを言うの? こんな声で、こんな歌で、いいの?
     すると彼女の動揺に反応したのか、功輝がふぎゃあと泣き出した。歌由は赤ん坊を抱きながらときめいてしまったことに少しの罪悪感を抱きながら、慌てて功輝をあやし出した。
    第2話

     姉の結婚を機に独立して一人暮らしをしている歌由だが、彼女も子供は好きだった。何より初めての甥だ。これまでも姉夫婦の邪魔にならないよう気を遣いながら、生まれたばかりの功輝に会いに来ていた。その折に功輝の父親の出張の話だ。
     歌由より二つ年上の姉、詩歩は夫に自分の家の苗字を継いでもらい、結婚後数年を経て実家を増築し、二世帯で住むことに決めた。それから間もなく待望の第一子が生まれたが、産休が明けるとすぐに昼間は子供を両親に預けて職場に復帰した。そのうえ夫が三月から数ヶ月の海外出張となってしまったため、今は歌由の父母が中心になって赤ん坊の功輝を育てている。
     姉も十年以上勤めた会社で、それなりのポジションに就いている。仕事を辞めるつもりはないらしい。しかし歌由の父親はまだ仕事をしており、母親にも用事のある日はある。
     そこで何処にも出かけられず困っていた母親と話した結果、功輝がもう少し大きくなるまで――功輝の父親が帰ってくるまで、歌由も仕事を休める日に手伝うことにしたのであった。歌由の職場は土日出勤が多く、平日が休みであり、功輝のことも可愛くて仕方がない。将来に備えて赤ん坊の世話をしてみたかった気持ちもある。
     ――と言いつつそんな未来が本当に来るのかどうか不安に襲われることもあるが、それを跳ね除けてこの年齢になった。半分諦めてもいる。その反面、姉や友人に嫉妬する自分も少なからず居る。思春期とはまた違った不安定な気持ちを、最近の歌由は抱えていた。
     母親も歌由が実家に帰るたびに、あんたも人の子供ばかり看ていないで自分の子供をなんとかしなさいよ、婚活とかいうのはしないの? と三十歳を前によくぼやかれている。結婚だけが幸せの全てではないが、確かに子供を産むことに憧れはある。しかし職場でも、資格や趣味のための教室でも、素敵な人が居ても既に既婚者であったりと上手くはいかない。


     そうした中歌由が出会った謎の大学生、来嶋は怪しい人ではないかという懸念もあるものの、記憶に印象深く残ってしまった。向こうから名乗ってくれたので、名前までちゃんと覚えている。
     思い返せば公園で功輝に子守唄を歌っていた時に歌声を褒められたという、奇妙な出会いだ。母親や姉に話せば当然功輝のことを心配されるので言えず、深入りするつもりもない。けれど来嶋の顔が何故か頭から離れなかった。何かが引っかかっていた。
     何年も男性に縁のなかった歌由が、久しぶりに異性に「女性らしい部分」に興味を示してもらったからかもしれない。しかも歌由の好みから大きく外れない容姿の人に。彼の笑顔の跡が、心にしっかり焼き付いている。恐ろしいことに巻き込まれたくはないが、彼がただの善意で「また会えたら」と言ってくれたのなら、次の水曜日も会えればな、と少し期待してしまっていた。
     ――十歳も年下の大学生と話して喜んでるなんて、私もおばさんになったかな。
     ただ単に、若い男と話せて嬉しかっただけなのか。自分でも呆れるが次の週の水曜日、歌由は同じ時間に功輝を連れて家を出た。


     赤ん坊の一日の生活リズムも少し分かってきた。成長が早いこの時期は慣れてもすぐにパターンが変わることを姉たちに習ったが、最近功輝はこの時間に眠くなってぐずるということの繰り返しだ。そういった時に抱き上げて外の空気に触れさせると、家の中に居るよりも泣かなくなるので散歩が習慣になったというわけだ。
     姉は母乳も与えているが生憎(あいにく)乳の出が悪く、預かっている間はミルクを飲ませている。これも作り慣れてきたうえに、オムツ替えも前より早くできるようになってきた。全ての準備を整えた歌由は、功輝を抱いてあの公園へと向かう。
     まだ春先だが大分暖かくなった。柔らかな陽光を浴びながらキャベツ畑の横を通り、垣根の角を曲がれば広葉樹や実のなる低木が植えられた町の公園が姿を現す。緑の多い場所のため歌由も夏休みの宿題で、父親と虫などを探しに来たものだ。
     気にしない。気にしていない。そう言い聞かせるものの、歌由の視線は公園の中を走り出す。
     ――いた。
     正午は越えているが、今が休憩時間なのだろう。ベンチでがつがつと弁当を食べている青年がそこに居た。頭に巻いたタオル。まだ肌寒くないだろうかと心配になる半袖シャツと、ズボンには模様には見えない黒い染み。――来嶋だった。
     ――声かけたら、迷惑かな。
     自分の子供でもない赤ん坊を連れたいい年の女に、と思われたら嫌だ。歌由は心配になったが、物静かな割に貪欲な一面も持っている。思春期の頃には「歌由はおどおどしたふりをして、わがままを通すんだ」と喧嘩の際、姉に指摘されたこともある。
     その性格は相変わらずのようだ。来嶋ともう一度話をしてみたいと思った。大学生でアルバイト中という身分も分かっている。前と同じ時間に同じ場所で同じことをしていたからか、先週ほど得体の知れなさは感じなかった。
     迷って立ち竦んでいた歌由だが、功輝がふにゃふにゃと泣きそうな声を出し始めた。背中を擦り小さな声で歌を口ずさむと、聞こえる距離ではないだろうに来嶋がこちらに気付いた。歌由のことを思い出したか、笑って頭を下げたことが遠目に分かり、歌由は緊張しながら一歩一歩彼へと足を進めていった。
     近付いてくる自分を、どう思うだろうか。その前に来嶋という人物もまだよく分かっていない。子供を連れているなら、一段と慎重になるべきだ。
     けれどあからさまに避けるのも失礼だろう。先日の様子では、人の良さそうな青年に見えた。
     功輝は可愛いが夕方まで一人で面倒を見ているため、歌由だって気晴らしに誰かと話をしたいのだ。それ以上、何も期待していない。そんな風に自分に言い聞かせながら、歌由は来嶋の数歩前に立った。
    「こんにちは」
     挨拶をしたのは、来嶋からだった。落ち着いた笑顔と丁寧な態度に、年上の歌由の方が焦ってしまう。
    「こ、こんにちは!」
     思わず声がひっくり返る。食事を終えた来嶋は、お茶を片手に歌由を見上げて笑っている。
    「先週も水曜日に来てましたよね。毎週、この日に面倒みてるんですか?」
    「ええ……。仕事が休みなので」

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    • スイーツ文庫
    • 作品投稿数:17  累計獲得星数:246
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      スイーツ文庫:http://sweetsbunko.jp/

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