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シリーズ:いやなやつ

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  • いやなやつ

    作者:風呂助

  • 無料作品 有料作品:¥0(税込) R18
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    お題:うわ・・・私の年収、表情



    いやなやつ 2626文字

     

     Kという男は生前、あらゆる非道で残酷な事件を起こした。
    命乞いする多くの者を殺し、金品を奪っては家を放火した。
    強奪する事。それがどんな財産でも奪いたい。

     が、奪ってしまえば何の興味も無いガラクタだった。
    金や宝石も、家屋も被害者の足一本も無用だと考えた。
    彼の強奪したモノを、年収だと考えると僅かだった。

     女性子供、老人外人、無差別に毒牙にかけていった。
    当然、Kは逮捕されれば死刑になるだろうと思った。
    全くどうでもいいと思っていた。

     逮捕される直前。Kは蜘蛛の巣にかかっていた
    一匹の蝶を見た。
     まだ生きて逃げ出そうと動いていた。
    特に情けをかける等、Kに限ってはありえぬ。
    この世は弱肉強食。Kはこの絶対原則で生き残っている。

     だが、この時偶然に過ぎないのだが、蜘蛛の巣に
    朝露が光った為だろうか、目が眩んだ。
    気がつけば蝶をヒョイと摘み上げていた。

     蜘蛛がこちらをみている。そんな気がする。
    蝶に情けはかけぬが、蜘蛛の獲物を奪う気持ちに
    心が動いたのかもしれぬ。

     朝露を独り占めしておいて、何だその目は。

     蝶はKの手から離れて、ヒラヒラと飛んでいった。
    Kはその姿を追う事もせずに、蜘蛛と睨みあっていた。
    この巣も払い飛ばして、蜘蛛など踏みつけようか。
    くだらん。何も出来ぬ罠狩人が。Kは無視して立ち去った。

     その後、何年もの年月は、逮捕から最高裁判決まで進み
    勿論、死刑判決が確定したのだが。棄却されずに最高裁まで
    時間がかかったのにKは不服だった。

     その時間があればもっと殺してやれたのに。

     もっと奪ってやれた。否、無理だ。もはや逃れられぬ。
    Kはこれまでの犯罪で決定的な証拠を、残しておらず
    如何なる目撃者も無関係の者も、周到に殺害しては、
    遺体を処理して廃棄が出来る、道具類や技術を持っていた。
    むしろ、こういった作業にこそ、生き生きと情熱を傾けた。

     根こそぎ奪いさるなら、骨一本に至るまで。

     如何なる状況証拠があろうとも、物的な証拠が無い。
    とはいえKは逮捕された時点で、死刑だと確信していた。
    奪う楽しみが、もう無くなったから。


     弁護人を雇う気持ちは無かったのだが、ある弁護士事務所に
    盗みに入った事が数年前にあった。その時、事務所で寝ていた
    弁護士を叩き起こした時、無論、殺害するつもりだったが、
    Kの恫喝には何も興味を持たずに、奇妙な話をしてきた。

     これがS弁護士との出会いだった。彼は初老の男性で
    眼光が奇妙だった、まるで何百人から一斉に睨まれる様な
    蜘蛛の眼のような見透かした目で笑った。

     「Kさん。あんたはどうせ捕まるし死刑になる。
    だが、その死刑執行直前まで、拘束されながら奪う気持ちはあるか。
    例えるなら、蜘蛛が巣を放り出しても、巣に獲物が掛かるように。
    興味が無いなら、いまこの老いぼれを殺してもいい。金庫はアレだ。
    XXXXで開く。私のクレジットも全て教えよう。」

     や、やめろ。俺に差し出すな。俺から奪う事を奪うな。
    初めてKは恐怖を感じた。同時にS弁護士に魅惑を感じた。
    いずれ逮捕された時は、S弁護士のみを指名する。
    その為の費用だけ、ある時期から金を用意した。

    「せいぜい最高裁までたっぷり稼がせてくれ。」

     Kが初めて人を殺めてから、逮捕までの期間。
    唯一生かしたのは、S弁護士だけだった。
    これはビジネスなのだと、そう思っていた。


     実際に状況証拠の穴を付き、証言者の信頼を失墜させ
    精神鑑定でも、判断に迷う材料を次々と繰り出していく。
    長引けば長引くほど、たっぷりと民衆の興味を独占した。
    記事を読むその時間を、ニュースの枠を、誰かの眼を。
    国民の全ての眼が、Kに注がれていた。

     長引くほど、その快感は増した。
    約9年間程の間だったが、何十人を殺すよりも
    多くの時間を奪い取った気持ちがあった。

     だがそれも終わりだ。

     最高裁判決の後、S弁護士から「力なれずに申し訳ない。。」
    という手紙を貰った。最後の「。。」は「ひひ」という意味だ。
    彼なりに稼いだのだろう。今更ながらに思うが、こんなのが
    弁護士になれるのなら、皆、狂ってても変じゃない。

     Kには身寄りが一切なく、刑執行の拘置所側で遺体の処理を
    任せる事になった。最期の言葉は「あれ、蝶ですね。」だった。 
    ちなみに当日、蝶を目撃した者は誰も居なかった。絞首刑執行。
     最期まで無表情だったといわれている。

    *****************************

     地獄というのだろうか。特に何も無い。暗いだけだ。
    黒いが正しい表現かもしれない。物凄く寒いが焼けるように熱い。
    体を引き千切られる激痛と、無関係に自由に動く体。
    だが、何も無い。ここに来る時、小さな声を聞いた気がした。

     太陽が消えてなくなるまでの時間が、ほんの一瞬に思える程の
    永い時間をこの「黒」で過ごすのだそうだ。
    黒いので見えぬが、鬼には赤鬼、青鬼、黄鬼といる。
    それらが俺を責め続けるが、この3色が混ざると漆黒になる。と。

     それは構わないのだが、何か変だ。
    あの蝶はその色を全て持っていた。でも漆黒ではなかった。
    そうか、俺はあの蝶を。

     「奪い忘れたんだった。蜘蛛から奪う事だけを考えて。
    蝶の羽を奪う事を忘れていたのだ。あの白い朝露のせいだ。」

     急激に悔しさがこみあげてきた。あの蝶を殺したい。
    命と羽を奪っておけばよかった。なんという勿体無い事を。
    あの白い朝露の糸さえ無ければ……。


     気にもならない極寒と灼熱の痛みと苦しみの中で、
    糸が見えた。朝露の白い光のような糸が。
    光の粒がキラキラとまたたく。何が反射しているのだ。

    「蝶だ!」

     糸の周りをグルグルと回っている。無数の蝶がいる。
    糸は一本では無かった。沢山垂れている。この黒の世界には、
    上下があるようだ。と、とにかく蝶を食らいたい。
    自分の姿も見えぬ俺の体は、化け物の顔だった。
    白い糸の露の光で、俺が歪んだ俺を見た。

     どうでもいい。蝶を食いたい。飛び掛るが蝶は上に昇る。
    どれだ、どの糸を昇ればいいのだ。右かと思えば左だ。
    こうなれば、いざとなれば隣へ飛べばいい。
     どうせ落ちても痛みと苦しみに何も変わらぬ。
    俺は真ん中の糸を昇り始めた。蝶は右へ左へ昇って行くが
    真ん中に来る事もある。少しづつ、少しづつ近くなる。
    あと少しで手が届くのだ。あの羽に。あの光に。

     あの2つの、いや無数の光の粒に……。睨まれて。
    真ん中の糸の先に居たのは、蜘蛛の光る無数の眼だった。
    不味そうに、ムシャムシャと俺を食い貪る。
    更に何千万、何億、と食われ繰り返す蝶を追う俺。

     次こそ蜘蛛を食うぞ。蝶を食うぞ。朝露を呑むぞ。

     糸が残らず切れるまで、食い殺してやる。

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    コメント

    • 嫌な人間大好きです。
      KもS弁護士も。
      • 4 fav
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    • コメ&閲覧ありがとうございます!ヽ(´・ヮ・`)キャラクターが進みたいと思うのを邪魔すると、その罪は真実なのかなぁ、なんて柄にも無く思ったりします!
      • 2 fav

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