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シリーズ:さかなびとの恋

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  • さかなびとの恋

    作者:河東 ちか

  • 無料作品 有料作品:¥0(税込) R18
  • 編集協力者:

    人間に助けられた人魚のお話



    さかなびとの恋 7868文字

     

     えなはさかなびとです。
     腰から上はひとの体で、そこから下は魚の体です。美しい碧色の鱗と銀色に輝く尾ひれが自慢です。
     えなたちの一族は、北と南からやってくる海の流れが交わる場所で、長い間不自由なく暮らしてきました。
     時々、水の中では生きられないつちびとが、木で作った「ふね」という乗り物で、えな達のすみかの近くまでやってくることがありました。
     つちびとは、腰から上はえなたちとおなじ姿をしています。でも腰から下は、地を這い歩くための脚がついています。彼らは自分たちの醜さを知っているので、獣からはいだ皮や草で編んだ「きもの」で身を隠し、草木をかじって生活しています。それが自分たちに与えられたのもだというのに、つちびとは身の程知らずにも「ふね」にのり、さかなびとのすみかである海にまでやってきて、えな達の兄弟である魚達を攫っていきます。
     近頃では、つちびとは針のついた糸を使うだけでなく、長い「もり」というもので魚を突いたり、網を放って捕らえようとするようになりました。えなたちは、「ふね」にも陸にも近寄らないようにと言い聞かされていました。

     えなはその日、お気に入りの浅瀬で魚達と遊んでいました。陸からもわりと遠く、日差しが温かな浅瀬は、深海とは違った明るい色の海草がきらきらと美しく、その隙間を縫いながら兄弟達と追いかけっこをするのはとても楽しいのです。
     あまりにも楽しくて、えなはつちびとたちの乗った「ふね」が近づいてきていることに気付きませんでした。つちびとたちは、浅瀬を泳ぐ魚達の鱗の輝きに引き寄せられて来たようでした。
     あっと思ったときには、えなと兄弟達の泳いでいた場所一帯に大きな網が放られ、そのまま絡め取られてしまいました。兄弟達の何倍も体の大きなえなは、隙間から逃れることもできません。「ふね」の上に引き上げられたえなを見て、つちびとたちはとても驚いた様子でした。
    「これは、人魚というものではないか」
    「人魚の肉を食らうと、不老不死になると言うぞ」
    「今年は不漁続きだ、年貢の代わりにこの人魚をおさめよう」
    「いや、切り分けて都で売れば、数年分の年貢くらいにはなるぞ」
     えなを取り囲んだつちびと達は酷く興奮した様子で、口々に恐ろしいことを言い合っています。
     えな達のすみかにつちびとが迷い込んできたとしても、それをさかなびとは切り刻んだり食べようなどと考えません。似たような姿をしていても、やはりつちびとは野蛮で恐ろしい生き物なのです。
     一緒の網で引き上げられた兄弟達が力尽きていく中、えなは恐ろしさに声も出ず、おぞましい相談をするつちびとたちを凝視していました。すると、
    「お前達、なにを言ってるんだ」
     それまで黙って様子を見ていたつちびとのひとりが、呆れた様子で声を上げました。
    「こんなに美しい娘を切り刻むとか、食べるとか、気は確かなのか?」
    「なにをいう、これは魔物だぞ」
    「岬のお社にあるご神体は人魚じゃないか。これだけの魚を連れて来てくれた生き物が、魔物なわけがない。傷つけたりしたらそれこそ罰が当たるぞ」
     周りのつちびと達は、えなと、その周りにいる「ふね」いっぱいの魚達を見比べ、お互い顔を見合わせました。
    「怖い思いをさせて悪かったな、久しぶりに魚の群れを見つけて、慌てて網をおろしてしまったんだ」
     つちびとの青年はそう言いながら、震えるえなの体を抱え、そっと「ふね」のへりから海へとおろしました。
    「おい、逃がしちまうのか? 網元に見せた方が良くないか?」
    「こうした生き物を、水もないまま連れて行ったら死んでしまうだろう。これだけ魚が獲れたら文句も言われないさ。さぁ、あんたは早く行きなさい」
     水の中に戻されても、恐ろしさと驚きで体が動かないでいたえなは、その声にはっとして、尾びれを動かし始めました。その時は、一刻も早くつちびとたちの「ふね」から離れたい一心でした。
     遠く離れたところで振り返ると、「ふね」はえなを追いかける様子はなく、つちびとたちは拡げた網をまた海の中に投げかけてました。

     すみかに帰って気持ちが落ち着くと、思い出されるのは、つちびとの恐ろしさではなく、えなを助けてくれた青年の優しい声でした。野蛮でおぞましい者だけではなく、あのように分別のある若者もいるのです。
     確かにさかなびとのなかにも、意地悪だったり冷たい仕打ちをする者もいます。つちびとも、さかなびとも、姿が多少違うだけで、心の形はそんなに変わりがないのかも知れません。
     時間が経てばたつほど、えなの心の中は、あの優しい青年でいっぱいになりました。
     もう一度会うにはどうすればよいのでしょう。さかなびとのえなは、長い間水から離れることができません。つちびとの「ふね」はたまにしかやってきませんし、あの青年が必ず乗っているとは限りません。それに、ほかのつちびとたちに見つかったら、今度こそ捕らえられてしまうかも知れません。
     一晩思い悩んだえなは、一族の婆様に相談に行きました。一族の中でもとりわけ長生きの婆様はいろいろなことを知っていて、海底の洞窟で妖しげな道具や薬に囲まれて暮らしています。
    「そうだね、あんたがつちびとのように脚を持てば、陸にあがることができるよ」
     見た目はとてもとても年老いているのに、婆様の声は、一族のどの娘よりも若く美しく響きます。
    「そんなことができるのですか?」
    「できるとも。ちょうど月も満ちているし、うまい具合に昨日、つちびとの新しい死体が手に入ったからね。あれを使えば、あんたに脚をつくってあげられる」
     そう言ってちらりと婆様は洞窟の奥に目を向けました。海草でぐるぐると巻かれた大きな固まりの、その隙間からつちびとの動かない指先が見え、えなはどきりとして目をそむけました。
    「ただ、あんたは脚を手に入れる代わりに、自分の大事なものをアタシに支払わなければいけない」
    「だいじなもの?」
    「そうさ。さかなびとをつちびとに変えるなんて、とても大変な魔法だ。願いを叶えるには、代償が必要なのさ。ずっと昔、同じ願い事をしにきた娘は、自慢の声を差し出したよ」
     そう言って、婆様は美しい声で笑いました。 
     声を失うなど、とても恐ろしいことです。でもその娘にとって、陸に上がることにはそれだけの価値があったのです。
     えなは考えました。あの青年に再び会うためにふさわしい、えなが差し出せる大事なものとはなんでしょう。
    「そうだね、あんたからは、あんたの大事なひとに関する記憶をもらおう。大事な人の、顔と声の記憶をもらおうか。それがあんたにとって、本当に大切なことなら、顔なんか思い出せなくたって、きっと探し当てられるだろうさ」
     えなは、あの優しい青年の姿と言葉を思い出し、思わず自分を抱きしめました。顔と声を忘れてしまうのはやはり不安です。でも確かに婆様の言うとおり、顔や声を忘れたとしても、あの青年に出会えばきっと、すぐに見分けられる気がしました。

     満ちた月が美しい藍色の水面を、えなはたくさんの兄弟達に引かれて陸に向かいました。尾ひれを失い、つちびとの脚を得たえなは、もううまく泳ぐことはできません。そしてこの姿で一度陸に上がったら、水の中で長く生きることはできなくなります。つちびとと全く同じ体になってしまうのです。
     陸に近づくにつれ、あの優しい青年の顔も、声も、記憶の中で霞がかかったようにおぼろになっていくのがわかります。なにが起きたかははっきりと覚えています。ただ、あの青年の手がかりになることだけが、頭の中から消えていくのです。
     それでもえなは、振り返ることはしませんでした。えなを引いて泳ぐ兄弟達の鱗が、青い月の光に照らされ、えなはまるで美しい光の雲に運ばれているかのようでした。
     波打ち際にたどり着いたえなは、両の腕だけで砂浜に這い上がりました。何度も立ち上がろうとしましたが、新しい脚にはうまく力が入らず、どう動かしていいかもわかりません。すいすい動けていた水の中と違い、形に変わりがないはずの腕や肩までがなんだか重たいのです。
    「どうした、誰かいるのか」
     とうとう動けなくなってしまったえなに、誰かが遠くから声をかけてきました。小さな提灯の光と一緒に、砂を踏む足音が近づいてきます。

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    コメント

    • 感想を書くとどうしてもネタバレになってしまうなぁ~と躊躇していましたが、読んだ感想(二回読みました)はやはりとても切なくなりました。人魚の話には思い入れがありまして、高橋留美子さんが人魚シリーズという漫画を描かれているのですがなかなか絵の雰囲気とか、話とか面白いのです。機会があったら是非お勧めしたいです!
      最後にどんな思いで、えなが激昂したのかと(私が勝手にそう思ってるだけかもしれませんが)思うと、やっぱり胸が苦しくなります。
      • 3 fav
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    • 読んでいただけて嬉しいです! あえて詳しく書かずに、読み手の想像に任せる部分を残すのも、大事かなって思ってたりします。

      高橋留美子さん、大好きですよー! 最近はちょっと遠ざかってて、「一ポンドの福音」を読んだくらいなんですが、いい機会なのでまた読んでみますね!
      • 2 fav

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    • こんばんは、魚を兄弟っていうと、実は人魚には雄がおらず、魚から精子をもらっているのでは……そんな深読みをしていたHiroです。
      そんな彼らを食べていたとしたら、それはそれでコミカルなホラーがかけそうですね(笑
      読んでいてチラホラと細かい設定が気に成りましたが童話にその手のツッコミは無粋なので、今回はスルーです。

      西洋の童話を見事な和風ホラーに変える手腕、さすがです。
      私としては予想通りの展開ではありましたが、破滅を予感させながらもゆるやかに進む本文から、ズバッと斬り返すラストの演出が際立っていて良かったと思います。

      では、簡単にではありますがこのあたりで…ノシ
      • 3 fav
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    • 人魚の雄は半魚人というのがどっかですり込まれてるような気がします・・・。
      私、原作の人魚姫、どーも好きになれないんですよね。見る目のない恩知らずの王子にそこまで入れ込むってなに? って感じで。 
      このネタはもう何年も温めてた話なんですが、ちょうどいい放流先が見つかったのを幸い、一晩で書き上げました。あんましはっきり時代限定すると面倒なので設定はイメージです。コメントありがとうございます。そして2万文字との格闘お疲れ様でした。
      • 3 fav

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    • *ネタバレあります

      えな達さかなびとは何を食べて生きているのだろう、と冒頭では思いながら読んでいたのですが、ラストを考えると、なかなか趣深かったです。ただ、前振りが冗長に感じたので、もうちょっとコンパクトにまとめてもいいかもしれません。

      ところで、腰から下がサヨの兄さんなら、えなの下半身は男性じゃないですかー(;゚∀゚)=3ムッハー 誠吉が初夜を迎える前で良かったです。頭を持ち帰ったところに、複雑な心理が込められているように思えて、いいラストだと思いました
      • 4 fav
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    • そういえばなに食べてるんでしょうね・・・。鯨みたいにプランクトンでも食べてるのかも。
      脚に関しては「魔法」なので、その辺りはご自由に想像して頂ければと思います(笑

      貴重なご意見ありがとうございます。書き上げたばかりなので、もう少し寝かせて更に推敲したいと思います。
      • 3 fav

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    • まるで絵本や童話を思わせるような綺麗なお話だなぁ。どこでホラーになるのかな?と妙な期待感を持ちながら、読み進ませていただいてたんですが……。
      ビックリ!!Σ(・□・;)

      先を想像しながら読んでしまう楽しみが味わえて、点と点が線になって面積になる、はっ!っと感に、カラーの違う着地点。
      超楽しめました!
      • 5 fav
      • Re 返信

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    • コメントありがとうございます。UPしたばかりなのでタグをつけませんでしたが、実はファンタジーやホラーにみせかけたミステリーなのでした。楽しんで頂けてよかったです。
      • 3 fav

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