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シリーズ:紅茶とともに福音を
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紅茶とともに福音を

作者:水鬼

  • 無料作品 有料作品:¥0(税込) R18
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    「私が殺してと言ったら、殺してくれる?」
    九条幸助は所属初日に自分が守るべきお嬢様、九条ジルにそう問われた。
    従者を品定めするお嬢様とお嬢様の出す条件を満たそうとする従者のお話。


    登録ユーザー星:2 だれでも星:1 閲覧数:361

    紅茶とともに福音を 48946文字

     

     黒い雲が空を埋め、雨の降る昼下がり。
     少し湿気ている制服を整える。深く息を吐いて、大きな扉をノックした。
    「入ってもよろしいでしょうか?」
    「どうぞ」
     扉をゆっくりと開き、部屋に足を踏み入れる。
     薄暗い部屋で窓から外を眺めていたのは、まるでビスクドールのような少女だった。
     ガラスのような碧眼、人間離れした真っ白な髪、そして白い肌。四肢は簡単に折れてしまいそうだ。
     美しい少女の表現に良く使かわれる描写だが、目の前の少女の容姿はまさにそれだった。
     若干違う部分があるとすれば、明らかな不機嫌オーラを漂わせている、と付け加えなければならない点だろう。
     生唾を飲みこんだ。聞きしに勝るとはこういう事か。
     世界に名をはせる大企業、九条グループの御令嬢、というのがこの少女の肩書きである。今日からは自分の主でもある事を付け加えなければならないのも、忘れてはならない。
     本来正しい血筋の人が立つべきであろうこの場所に、専門教育もほとんど受けていない自分が立っている。
     自分自身、こんな事になるなんて予想すらしていなかった。
     だが、彼女の父親には大きな恩があった。頼まれたら断れない。それに、別に嫌々承諾したわけでもない。役に立てるのはむしろ嬉しい事だった。
    「いい天気ね。雨は好き?」
    「どちらかと言えば嫌いです」
    「そう」
     少女はこちらへと歩み寄る。新人の使用人を、おそらく品定めをしているのだろう。頭から足の先まで一通り眺める。
     拳一つ分ほどの空間を開けて、目が合った。
     別に眼力が強いわけではないが、何かに威圧されて、自分よりも小さな少女に萎縮する。身長は平均よりも低く思えた。見た目は中学生ほどにも見えるが、実際は高校生のはずだ。
     眺め終えると目を瞑って唸った。そして、一言。
    「まぁ、いいでしょう」
     苦笑して答える事しかできなかったが、どうせ彼女はこちらの反応なんて気にしていないだろう。
     案の定、何の反応もなく、彼女は続けた。
    「……貴方、私の言う事ならどこまで聞ける?」
    「どこまで、とは?」
     少女は含み笑いをして言った。
    「私が殺してと言ったら、殺してくれる?」



     九条幸助は世界的な大企業の家系――の非常に末端部分の人間であった。元々孤児であったのを取締役の九条宗次に運よく引き取ってもらい、分家で育つ。
     つい最近まではただの学生であったが、一本の電話を境に本家で特別なカリキュラムを受けることとなる。
     電話の内容は、娘の身の回りの世話をしてほしいというものだった。
     勿論、断るという選択肢も用意されていた。宗次も学校での友人関係などを気にして、無理強いはしないと言ってくれたのだが、何時か何かしらの形で恩を返したいと考えていた幸助にとっては、またとないチャンスでもあったのである。
     学友は恋しいが、事情を話すと快く背中を押してくれる者ばかり。今は違う学校に通っている、旧友でもある友人の姉からもメールをもらう。
     我ながらいい友人関係を築けていると幸助は思った。
     無論、本家周辺の人間関係等、様々な障壁もあったが、本家当主の押しという事でどうにかねじ伏せているらしい。
     ……のだが、使用人生活開始は数分で全て棒に振られることとなりそうになっていた。
     衝動って怖いね。なんて言葉が脳内に木霊して、幸助は泣きたくなる。
     先の質問に対して、幸助は彼女の頬を引っ叩くことで解答したのだった。
    「貴方みたいなケースは初めてだわ」
     九条グループ本家の御令嬢、九条ジルは赤くなった左の頬をさすっていた。眉をひそめているのは初めからだが、不機嫌オーラが増したのは言うまでもない。
     幸助にとってそういう話は禁句だ。孤児になったのは交通事故が原因だった。前の座席でぐったりして動かなくなった両親の様子を今でもよく覚えている。
    「申し訳ありません。自分に素直なもので、つい」
    「つい、でボーイに叩かれたらたまらないわよ」
     ボーイ。従者として未熟者呼ばわりされるのは、これでは当然の事だろう。
     咄嗟にしてしまった事とはいえ、いきなりの失態で冷や汗が止まらない。
     一日と持たずにこのままクビになるのではないのだろうか。いや、それだけで済むのか? 仮にも本家のお嬢様を殴ったわけだし、下手すると家族にまで迷惑が及ぶのでは……。
     顔から血の気が引き、幸助はどんどん思考がネガティブな方向へと突き進む。
    「そうね……貴方、自分が何したか良く理解している?」
    「は、はい。解雇されて当然だと思います。そのくらいで済んでくれればまだましですね」
     蛇に睨まれた蛙の気分である。
     幸助は血の気が引きすぎたのか少し足元がふらつかせた。
    「まぁ、別にいいけど」
     ジルは片手で髪をくしゃりと乱すと、ぼそっと呟いた。
    「ですよね、当然解雇……は? 今何と?」
    「別に問題じゃないって言っているの。それより、二人の時は敬語じゃなくていいわ」
     九死に一生を得た。
     現在の幸助にぴったりの言葉だろう。だが、素直に受け入れることはできなかった。普通に考えれば即解雇。これは間違いない。
     何故許されたのか、訊かずにはいられなかった。
    「どうして? そういう性癖か?」
    「そんなわけないでしょ。本当に解雇されたいの?」
     ジルは眉を八の字にしてむすーっと幸助を睨んだ。
    「理由は簡単。貴方の反応は決しては間違っていなかったからよ。いきなり殺しにかかっていたら話は別だけど」
    「正解であったとも言い難いと思うけど」
    「そうかしら、少なくとも私にとってはまずまずだったわよ」
     ジルは外を眺めて目を合わそうとはしなかった。
    「じゃあ、今日からよろしく頼むわ」
     幸助の大まか仕事としては、四六時中ジルに付き添い、要望に応えるとの事。しかし、詳細を見ると朝の目覚まし係、という記述に目が留まる。
     幸助もジルも十七歳になる。さすがに同い年の女子の部屋に朝から突入するのは、少々、いや、大いに問題があると思われた。
    「お嬢様、聞きたいんだけど」
    「なにかしら?」
    「朝の目覚ましの件、これは絶対しないとだめか?」
    「佐奈か貴方、どちらかでいいわ」
     現在いる建物は学校が近くにある別荘で、最小限の人数しか入れていない。そのため、使用人は幸助を含め二人。洗濯などの仕事もあるので、剰水佐奈と言うメイドがいる。
     まだ顔合わせもしていないが、書類にあった写真と文を見る限り、可愛らしい女性だ。
     もっとも、ジルは書類に目を通した時の印象とは少し違ったし、イメージ通りとはいかないかもしれないが……。
    「ちなみに過去やめていったボーイは私に手を出そうとして解雇になっている者もいるから、気をつけたほうがいいわね。と言ってもやる人はやるのだけど」
    「これは試練か何かなんですかね」
     この件に限ったことではない。
     一つ屋根の下に同年代の男女三人が住み、しかもうち二人は女子。男子としては平静を保てるか不安である。というか、保てないほうがある意味健全な反応なのでは?
     幸助は考えたが、ジルが話し始めたため思考を一旦切った。
    「仮にあなたが何かしても、報告は別の理由になるから安心しなさい」
    「何をどう安心しろと」
    「私に手を出したなんて知ったら……あとが怖いわよ」
     声のトーンが一つ下がって、ジルの目線が遠くなる。幸助は一瞬で察した。
     噂で聞いた話によれば、宗次は娘のジルを大層可愛がっているそうで、ジルがどれだけ嫌がっても、ガードの男女を最低一人ずつはつけておかないと気が済まないらしい。
     そんな娘が手を出されたと知ったら。
    「……努力します」
    「よろしい」
     ジルは容姿だけ見れば間違いなく美人の部類に入る。
     華奢な彼女が無防備にベッドで寝ていたら、襲う輩も出てくるだろう。もし今の彼女が普段とかわりないなら、冷たい視線がなく、威圧的でないというだけでどこか弱みを見ているような感覚にも襲われそうだ。
     普段自分の上にいるものが弱みを見せた時、ちゃんと関係を築けていなければ寝首をかこうとする者は案外少なくはないだろう。幸助の様に従者意識を長い年月をかけて叩き込まれていない者は、特に。
    「もう一つ傍にいる間は、読書なりすることはできるか? あとは勉強の時間とか確保したいんだが」

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    コメント

    作者紹介

    • 水鬼
    • 作品投稿数:6  累計獲得星数:53
    • 大分県に住む男子大学生♂
      拙い文が多いかと思いますが、一生懸命書いてこれなんですよなぁ(白目
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