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シリーズ:名もなき者 -勇者に恋した町人A-
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名もなき者 -勇者に恋した町人A-

作者:タビビト

  • 無料作品 有料作品:¥0(税込) R18
  • 編集協力者:

    「ようこそっ! 辺境の町メルルへっ!」
    町の入り口で冒険者たちに町の名前を伝える。それが町人Aの仕事。これは、そんな名もなき町人Aが少女勇者に恋してしまう物語。勇者の気を惹こうとする町人Aだったが、やがて事態は思わぬ方向に転がり……。果たして町人Aは圧倒的格差を乗り越えて勇者の心を掴むことができるのか。


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    名もなき者 -勇者に恋した町人A- 34296文字

     

     プロローグ


     おもむろにまぶたを開く。
     カーテンの裾から薄い陽光が差し込み、床の上で陽炎のように揺れている。
     窓の向こうから響くけたたましい音は、一日の始まりを告げる鶏の鳴き声だ。

     ――朝。

     今日も朝がやってきた。
     ギシリと軋むベッドから身を起こした俺は、ふらつく足取りで寝室の奥へ向かった。
     家の裏庭に繋がる扉を開くと、朝の爽やかな空気が頬を撫でる。
     井戸から水をくみ上げて、パシャパシャと顔に叩きつけた。

    「くあぁぁ、しみるぅぅ」

     冷水が頬を刺激し、体中の神経が順に研ぎ澄まされていく感覚。
     覚醒した俺は布製の仕事着に着替えて、いつもように我が家を後にした。
     東から昇った朝日が、木造家屋が居並ぶこの小さな町を鋭角に照らしている。
     俺は眠りから覚めようとしている町並みを眺めながら、東西を貫く中央通りを悠々と闊歩した。

     ――仕事。
     そう、誇り高き俺の仕事場に向かうためだ。

     町は、俺の背丈の二倍ほどあるブロック塀でぐるりと囲まれている。
     その東側に出口となる門があるのだが、俺の仕事場はそのすぐ脇だ。
     普段通り、颯爽とその場所に立った俺は、
    「さあ、仕事はじめだ!」
     と、自身に言い聞かせて、軽く深呼吸をした。

     静かなる闘志を胸に秘めつつ、今日もプロとして仕事を完璧に遂行しようと、鋭い眼光を門外に向ける。

     ――来る。

     長年にわたる経験が、俺に今日最初の仕事の到来を告げた。
     視線の先、緑の草原に長く伸びた一本道に三人の男達の姿がある。
     険しい表情を浮かべた男達は、歴戦の強者といった出で立ちをしていた。
     屈強な立ち振る舞いに威圧感を伴わせながら、俺との距離を一歩一歩、ゆっくりと、確実に詰めてくる。

     そして、ついに。男達が俺を囲むように目の前に立ちふさがった。
     分厚い胸板をした三人の男からは、壁のような圧力が放たれている。
     だが、こちらはひるまない。
     ほんの少しの怯えすらない。
     にやりと笑った俺は、すっと息を吸った。
     そして、無言で俺を見据える男達に対しこう高らかに宣言する。

    「ようこそっ! 辺境の町メルルへっ!」

     ――仕事、遂行。
     目の前の冒険者達は、何事もなかったかのように町の通りに消えていった。

     どうやら今日も俺の仕事は順調な滑り出しを迎えたようだ。

     ――そう。名もなき、町人Aとしての仕事が。




     第一話 町人A、勇者に出会う


    「あーっ、今日もいい汗かいたっ」
     俺の目の前で、酒をごくごくと飲み干した男が、空のグラスをどんっと机に叩きつけた。

    「いい汗って……室内勤務野郎に言われたくないな。こちとら炎天下の中、ずっと直立不動だっつうのに」
     俺は、目の前の男をじとっと睨みつけながら、恨めしげに言った。

    「かかか。まあ、しょうがねえだろう。そういう設定なんだからよ。俺は武器屋。お前は町人A」
     豪快に笑うこの男は、町の武器屋だ。
     豪気な雰囲気の男だが、口元を覆う髭以外はこれといって顔に特徴はない。
     それは、この男が俺と同じ名もなき者だからだ。この世界の脇役である俺達には、これといった特徴や能力が付与されていない。
     名前すらも。

     俺達は、今町の北西エリアにある酒場にいた。
     外は既に日は落ちており、いつものように仕事終わりの一杯をやりにきたのだ。

    「で、今日はどれくらい売れたんだ?」
     つまみの鳥の燻製を口の放り込みながら、俺は武器屋に目をやった。
     男は小さく首を振る。

    「……まったくだ。むしろ馬の糞を買い取る羽目になっちまった。馬糞だぞ、馬糞。農民ならともかく、武器屋があんなもん引き取ってどうしろっつうんだよ?」
    「……可哀想に」
    「悲しくなるから本気で同情するな。お前はどうなんだよ? 今日は何組に声かけた?」 
    「……一組」
    「……ご愁傷様」

     そう。
     結局、俺が今日声をかけたのは朝の三人組だけだった。
     あとは日が大地の向こうに沈むまで、笑顔で突っ立っていただけだ。
     町人Aとしての俺の仕事は、町にやってくる冒険者に町の名を伝えること。
     だが、この町にはそもそも来客が少ない。
     理由の一つは 俺達の町メルルがエルーナ大陸最西端の辺境にあるためだ。

     海風はあるが、季節は初夏。
     風通しの良い布の服を着ても、照り付ける日射しがじりじりと肌を焼く。
     想像して欲しい。
     木陰すらない場所に、薄笑いを浮かべながら一日中黙って立っている男を。
     それが、この俺。町人A。

    「ま、しょうがねえよ。俺達はとりあえず設定通り動くしかないんだからよ」
    「……まあな」
     俺は諦めたように言う武器屋をちらりと見て、片手のグラスを口に運んだ。
     設定というのは、この世界を規定するルールのようなものだ。
     誰が、いつ、どのように決めるのかは良く知らない。だが、それは厳然と存在しており、その設定により俺は町人A、こいつは武器屋になっている。

    「おい、マックス。もっと飲めよ! 前祝いだ」
     三つほど隣の席から声が響いた。
     ふと見ると俺が朝に声をかけた三人組の冒険者達の姿がある。
     料理を所狭しと机に並べて、うまそうに酒を酌み交わしていた。

    「くぁー、長旅の疲れが癒されるぜっ」
    「おいおい、油断するんじゃないぞ。本番は明日からだ」
    「まあ夜はまだ長い。潰れるまで飲もうや」

     旅の健闘を称え合う彼らの様子を、俺は無言で見つめた。
     冒険者には名がある。
     そして、世界を自由に巡る事ができる。
     魔物を狩ることも、王都に行くことも、そして、世界の果てを目指すことも可能だ。

     だが、俺にはそれはできない。
     しかし、どうしようもない。そういう設定なのだ。
     設定には逆らってはいけない。それが世界のルール。

     それに――
     訪問者が少ないのは残念だが、俺は町人Aの仕事に誇りを持っている。
     遠路を旅してきた冒険者達は、俺の言葉で旅の達成感を得る訳で。
     だから、きっとあの三人組の冒険者も俺の一声に癒されたに違いないと思うのだ。
     俺はそう考えて、冒険者のテーブルにちらりと目をやった。
     だが、彼らは町人Aの俺には一切気がつかない。きっと、恥ずかしいのだろう。

    「……あいつら賞金稼ぎか。北の廃墟に向かう気だろうな」
     武器屋がぼそりと呟いた。
     町の北側にしばらく行ったところに、今は廃墟となった町があり、そこに魔物が住んでいるという。

     この世界には数百年前、魔王がいた。
     魔王の死後、その配下の魔物たちは世界中に散らばり、細々と暮らしていたと聞く。
     そのうちの一匹が、少し前から北の廃墟に棲みついているというだ。
     俺達の町メルルは廃墟に一番近い町である。最近、訪問者が少ないのはそういう理由もある。
     実際、今では国家は魔物退治にかけた賞金目当ての冒険者たちくらいしかやってこない。

     そこで友人が思い出したように顔を上げた。

    「そういえば噂で聞いたんだが、北の魔物退治に勇者がくるらしいぞ」
    「勇者? 勇者って……大昔に魔王を封印した?」
    「ああ、どうやらその意志を継ぐ者が現れたとか」
    「…………ふーん」
    「何だ? 興味なさそうだな」
    「いや、別に……」

     ――勇者。……勇者か。
     海を割り、風を切り裂き、魔を砕く。
     そんなイメージのある正義の味方、勇者。
     まさに世界の主役だ。きっと、さぞやすごい人物なんだろう。

     だが、正直なところ、世界の脇役中の脇役である町人Aに関係があるとは思えなかった。
     仮にそんな英雄が現れたとしても、俺はいつのもように町の名前を伝えるだけだ。

    「おーい、もう一杯っ。同じのくれっ!」
    「はーいよっ!」
     カウンターを振り返った俺に、肩までの黒髪を垂らしたソバカスの女の子が、威勢よく答える。
     ちなみに彼女は「酒場の娘」だ。
     彼女が運んできた琥珀色の液体を受け取った俺は、それをぐびぐびと喉に押し込んだ。

     そうして、いつもの夜は、いつものようにふけていった。

      §

    「ようこそぉぉぉっ! 辺境の町メルルへぇぇぇぇ!」
     熱く歓迎されたい方向け。

    「……ここは辺境の町メルル」 
     あっさり味がお好みの方向け。

    「べ、別にあんたにここが辺境の町メルルだって教えたい訳じゃなくて、仕事なんだからねっ!」
     ツンされた後にデレたい方向け。

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    コメント

    • 表紙コンペに伴い、まずは作品を、と読みまわっておりますw
      いやぁ、楽しい!コメディ大好きなんですけど、あんまり書く人いないんですよね~。しかも面白い人も少ないという・・・w
      でもこれは楽しかったですーw 最初は切なかったんですけど・・・w 特に最後の「一部がゴーレムに」はやられましたww

      バグが修正されて、いざ勇者と出かけようとしたら、また頭痛で町から出られない・・・にならなくてよかったですw
      ただ、あくまでも私の好みなんですが・・・名前は「ナガナイン」の方がよかったな~と思いましたw
      「私には名がないんだ」→「私はナガナインだ」でw

      スタスタ歩いていって「ていっ!」もツボでしたww
      • 2 fav
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    • カール(絵ノ森 亨)さん、コメントありがとうございます!
      お題がラブコメだったので、ちょこちょこ笑い要素を混ぜ込んだのですが、楽しいといって頂けて何よりです。
      おぉ、ゴーレムに言及して頂けるとはっ......。あれは本当に勢いででてきた言葉でした 笑
      名前の件は確かにそっちの案もありましたねっ!
      それから、バグの件は今後も修正されないように祈りましょう。きっと恋し続ければ大丈夫です......
      いやぁ、本当に読んでいただきありがとうございました。少しでも楽しい時間が過ごせたならばそれに勝る喜びはありません^^
      それでは!
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    • 気持ちだけ先にコメント欄にきてしまったようで、そのまま☆を付け忘れるという・・・(Д`;
      今更気づいて慌ててつけましたww

      またぜひ、コメディを書いてくださいw 楽しみにしてますw
      • 1 fav

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    • 御礼】表紙イラストコンペにつき応募頂いた皆様、本当にありがとうございます!この場を借りて御礼申し上げます。結果については選択権はないので見守らせて頂きますが、頂戴したイラストは全て我が家の家宝にさせて頂きます。  
      献科さん、317さん、ましろ.あー。さん、はんこさん、柚子咲りくさん、岩下あきらさん、ねこまんまさん、ichimatsuさん、りんごさん、ゆきさん、めなさん、tec5300さん、みさん、條りりささん、水添水鶏さん、時枝さん、Berlionさん。
      本当に有難うございました!
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    • 初めまして、遅くなりましたが受賞おめでとうございます。タイトルを見て今回の最終選考以上の中では一番引きつけられた作品でした。よんでいたら夢中になり朝の5時になっていました(笑)。読んでいる途中で何度も笑わせていただきました。有り難う御座います(´▽`*)
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    • 水鬼様
      はじめまして。お返事遅くなってしまい申し訳ありません。メッセージありがとうございます!
      笑って頂けたとのこと、何よりのお言葉です^^。コメント投稿時間がほんとに朝五時ですね。ひぇぇ、ありがたやぁぁぁ、の一方で体調にはお気をください^^;。そこまで熱中していただいてなんかもうすごい感動です。
      水鬼様も最終選考ですよね? 素敵なタイトルだなぁと思っていました。ヒロインの名前がかぶっていたようですね……^^;。
      では、引き続きよろしくお願いします!
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    • 初めまして。遅ればせながら受賞おめでとうございます。読み始めてからずっと爆笑しっぱなしの作品で自分の中ではかなりの押しだった作品の受賞に嬉しくなりました。すっかりファンです。これからも頑張ってください!
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    • かにゃんまみ様

      メッセージありがとうございます!ほんとに目から水が流れてきました(;_:) ラブコメというお題だったのでコメディ部分をちょこちょこ入れたつもりでしたが、全然笑えなかったどうしようと思っていました。ファンだなんて嬉しすぎます。私も近いうちにかにゃんまみ様の作品読ませて頂きます。ともに頑張りましょう!
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    • 投稿が遅くなりましたが、誤字・脱字を修正しています。キャラの名前が一か所違うという信じられない現象をなかったことにすることができました。失礼しました。これで枕を2cmほど高くして眠れそうです
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    • 第一回ライトノベルコンテストで佳作を頂くことができました。自分が一番驚いており、かつ誤字を直したい思いでいっぱいですが、もうしばしはこのままのようです… 応援頂いた皆様本当にありがとうございました。
      • 2 fav
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    • 今更ですが、2-3誤字があり、特に一箇所主人公の名前が違うのが最後の更新時に誤って古いファイルからコピペしてしまったのが原因です。締め切り直後に気づいたのですが規定により直せず…。晒されたままなのが恥ずかしい…T_T。気にせず読んで頂けると幸いです。
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    • 読んでいただいた皆様、ありがとうございました。生活のバタバタが落ち着きましたので、私もこれからじっくりと色々な作品をみてみたいと思います
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    作者紹介

    • タビビト
    • 作品投稿数:1  累計獲得星数:36
    • 読むのも書くのもファンタジー系が好みです。
      読んで楽しんで頂ければ嬉しいです。
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