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シリーズ:僕の宝物
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僕の宝物

作者:こより

  • 無料作品 有料作品:¥0(税込) R18
  • 編集協力者:

    思い出の場所へ向かった「僕」が見つけた記憶とは?

    サイトにも掲載しています。
    http://yamabukiya.koyori.biz/short-story/takaramono/


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    僕の宝物 9862文字

     


    荷造りを解いた時、一本の鍵を見つけた。
    その鍵はひどく古く年代を感じさせるもので、この家の鍵ではないようだった。
    僕の家は、父親の仕事の都合で転勤が多い。
    この家も先週引っ越して来たばかりで、部屋の片隅には、まだ前の住人の気配が残っている。
    この鍵は、もしかしたら今まで住んでいた家の、どこかの鍵なのかも知れない。
    古い鍵か……そう言えば昔、まだ小学生くらいだった頃にこんな鍵を使っていそうな、古い、田舎の家に住んでいた事があった。
    ふいに昔の事を思い出し、何だか懐かしさに駆られた僕は、昔住んでいた場所に行ってみようと思い立った。
    幸い、今は夏休みで学校も休みだ。
    新しく越した土地で、知り合いも友達もいない僕には、この夏休みは長すぎる。
    たまには昔住んでいた土地を訪れるのも、面白いかもしれない。
    そんな事を思いながら、手元の鍵に視線を戻す。
    その一瞬、脳裏に何かが過った。
    それが何だったのか思い出そうとするのだけど、思い出そうとすればするほど、それはおぼろげになり、記憶の片隅に逃げてしまった。
    ……今のは何だったんだろう? トクン……と心臓が静かに波打つ。
    どこか妙な感覚に囚われながらも、僕は荷解きもそこそこに、今度は旅支度を始めた。
    懐かしい思い出を訪ねる旅に向かうために。


    ◇◆◇


    電車を何本も乗り継ぎ、バスに揺られた先に、昔僕が住んでいた場所はあった。
    ポケットの中には、あの鍵がある。
    バスに揺られながら、のどかな景色を見ている内に、だんだんと見覚えのある風景が窓の外を過ぎて行くことに気付いた。バス停に着き、バスを降りる。
    『嶺岸小学校前』と書かれたバス停のすぐ近くには、僕が一時期通った小学校があった。
    小学校と言うには、随分こじんまりとした建物を見ながら、僕は呟いた。

    「……懐かしいな」

    正直、小学生の時の事は、あまり良い思い出がない。
    小学生の頃から転勤が多く、あまり一つのところにいた事のない僕にとって、小学生の時の思い出と言ったら、転校に関する思い出ばかりだ。
    転校初日。先生に連れられ、教室に近づく度に高まっていく胸の鼓動。
    手からはじんわりと汗が滲み出て、緊張で握った拳が気持ち悪い。
    扉を開けると向けられる、好奇の視線。
    群がるクラスメート達。
    次々と浴びせられる質問に、僕は上手く答えられずしどろもどろになってしまう。
    やがて、そんな僕の様子を見て呆れたクラスメート達は、一人、また一人と僕の席から離れて行き、席には僕だけが残る。
    その結果、ヨソから来た無口で面白みのない奴と言う印象をクラスメート達に与えてしまい、初日にして僕のクラスでの立ち位置は、低いものとなってしまう。
    転校を繰り返すたびに、いつもこんな調子だ。
    僕だって、それをよしとしているわけじゃない。何か話そうと思うのだけど、話そうとすればするほど、一体何を話していいのかわからなくなって、言葉が上手く出て来なくなってしまう。
    ようするに、僕は不器用なのだ。
    高校生になった今も、それはあまり変わっていないように思える。
    ……なのになぜ、そんな思い出ばかりが残る小学生時代を過ごしたこの場所に来ようと思ったのだろう。
    きっかけは、部屋で見つけた古い鍵だ。その鍵を見つけた時に、僕の心の中に何か引っ掛かるものがあった。何か思い出せそうだけど、思い出せない。
    そんなもやもやしたものが、今もずっと僕の中で燻っている。
    その正体を知りたくて、僕は遠いこの場所まで来たのだ。


    ◇◆◇


    「確か、こっちだったような……」

    小学校を後にし、僕は以前住んでいた住居を訪ねてみることにした。
    あの頃の記憶を頼りに、畦道を歩いていく。
    目の前に広がる景色は、僕が小学生だった頃とそう変わっていないようだった。
    数多い転勤生活の中、転勤先は大都市ばかりで、こんな田舎へ来た事がなかった僕は、引っ越し先へと向かう車の中、外の景色を見つめながら、ひどく不安になったのを思い出した。
    そう言えば……僕がここへ引っ越して来たのは小学四年の時だったっけ。
    畦道を歩いていると、少しずつ当時の記憶が蘇って来る。
    アスファルト道路の上しか歩いた事がなかった僕は、ここへ来たばかりの頃は、おっかなびっくりしながらこの道を歩いたものだ。
    確か、田んぼに落ちそうになった事もあったけ。
    飛び出して来たウシガエルに驚いて体を後ろに引いた時に、バランスを崩して後頭部から田んぼに落ちそうになって……。
    でも不思議と田んぼに落ちそうになった記憶はあっても、泥まみれになった記憶はなかった。
    僕は結局、あの後田んぼに落ちたんだっけ……?

    『大丈夫!?』

    その瞬間、脳裏に強烈に蘇って来た光景があった。
    田んぼに落ちそうになった僕の腕をしっかりと掴む手。驚いた顔をしつつ、僕の事を心配そうに見つめる優しげな瞳。風になびくやわらかな黒髪。

    「みかちゃん……」

    気付けば僕は、少女の名前を呟いていた。
    瞬間、霧が晴れたように記憶の中にはっきりと、少女の姿が浮かび上がった。
    みかちゃん……彼女は、僕が引っ越した先の隣の家の子で、僕と同い年の女の子だった。
    引っ越したばかりの僕の事を何かと気にかけてくれて、彼女の母親の計らいで、毎朝一緒に学校に通っていたんだった。
    田舎の学校だからクラスは一つしかなくて、学校でも彼女とは同じクラスだった。
    明るく元気な子で、引っ込み思案だった僕の事を何かと気にかけてくれて、遊びに誘ってくれたっけ。
    彼女の名前を思い出した途端、数珠つなぎのように過去の記憶が次々と蘇って来る。
    そうだ……惨めな小学校時代、ここで過ごした期間だけは、数少ない楽しい時間だったんだ。
    それなのに、僕はどうしてすっかり忘れてしまっていたんだろう。
    地面を見つめながら、そんな風に頭を巡らせているうちに、いつの間にか僕の家があった付近に到着していた。
    キョロキョロと辺りを見回してみる。あの時住んでいた家は、確かここら辺にあったはずだ。
    赤いトタンで出来た屋根で、二階建ての一軒家。広い庭があって、庭の中には小さな古い納屋のようなものがあった。
    父親が「会社が安く借り上げてくれた」と得意げに話していたのを思い出す。
    すると、すぐ視界の先に、赤いトタン屋根の一軒家が目に入った。
    きっと、あの家だ!  僕は小走りで、その家の前まで駆け寄った。
    赤いトタン屋根で二階建ての建物。庭の中には、今にも崩れ落ちそうな古い納屋があった。
    間違いない、この家は僕が昔住んでいた家だ。
    家は、昔と変わらない佇まいのまま、静かに時を重ねていたようだった。
    ふと、表札に目をやる。表札には真新しいプレートで、僕の名字とは違う知らない名前が刻まれていた。

    「あ……」

    この家にはもう、新しい住人が住んでるのか……。
    そうだ、この家は会社が借り上げた物件だ。僕たち家族が引っ越したら、次に会社の誰かが住む事だって当然あり得るじゃないか。
    僕はなぜか、僕たちが引っ越した後は空き家になっているんじゃないかと勝手に思っていた。
    けれど、人が住んでしまっているんじゃ、勝手に庭に入るのは気が引けてしまう。

    「愁ちゃんじゃないかい?」
    「え……?」

    突然、背後から声を掛けられ振り返ると、そこには一人のお婆さんが立っていた。

    「やっぱり、あんた愁ちゃんじゃろ」

    お婆さんは、にこにこと笑いながら僕に話しかけてくる。確かに僕の名前は愁(しゅう)だ。
    けれど、振り返ったお婆さんの顔に僕は見覚えはない。
    なぜ、このお婆さんは僕の事を知ってるんだろう?

    「あ、あの、お婆さんは……?」
    「何だい、もう忘れちまったんかい? 淋しいねえ。あたしゃすぐ愁ちゃんだってわかったってのに」
    「す、すいません……」
    「ほら、みかちゃんと一緒によく家に遊びに来てたじゃないか。はす向かいに住んでる山下の……」
    「ああ、落花生ばあちゃん!」

    思いだした途端、大きな声で叫んでしまい、慌てて口を噤んだ。
    思いだした。このお婆さんは、僕がここに住んでいた頃、みかちゃんと一緒によく遊びに行っていた近所のお婆さんだ。
    おやつによく落花生を出してくれたから、僕たちの間で、『落花生ばあちゃん』とあだ名を付けていたんだ。

    「す、すいません……」

    思わず、落花生ばあちゃんと呼んでしまった事を謝る。

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    コメント

    • だんだんと記憶の謎が解けていく感じに、ワクワクさせられました。
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    • ラストの美しさ(?)に全てが集約されていますね。
      絶妙な余韻が残ります。

      ホラー、というよりはミステリー寄りな感じはしますが。
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