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シリーズ:福の神
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福の神

作者:ぶどうのあき

  • 無料作品 有料作品:¥0(税込) R18
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    閑散とした店に入って、ふと気が付くと大勢の客が入っていたという経験のある人は多いだろう。そして、そんなことがあっても何とも思わないか、偶然と思うだろう。でも、僕は、それを偶然とは思わない。
    「福の神のいぬまに」という続きを書きました。一応R18にしています。


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    福の神 11047文字

     

    閑散とした店に入って、ふと気が付くと大勢の客が入っていたという経験のある人は多いだろう。誰もいない居酒屋で飲んでいたら満席になっていたり、だれもいない屋台のたこ焼き屋で買おうと財布から小銭をだそうとしてちょっともたついていたら、後ろにずらっと並んでいたり。
    多くの人は、そんなことがあっても何とも思わないか、偶然と思うだろう。

    僕もそういう体験はよくする。
    でも、僕は、それを偶然とは思わない。だって、僕には、福の神がついているから。本当に、冗談ではなく。
    僕の肩にはちっちゃい福の神が乗っているんだ。僕にしか見えないから、証明のしようはないけれど。

    僕の名前はとみとくひろむ。漢字で書くと富徳広睦だ。いかにも福々しい苗字ではある。僕の両親は福を大勢の人に広めますようにという願いを込めて名前を広睦にしたそうだ。
    だからといって生まれた時から福の神がついていたわけではない。
    福の神に憑りつかれたのは、15歳の時だ。憑りつかれたというと縁起が悪いことのようだからやめろ、と福の神に言われる。でも、僕からしたら憑りつかれたという気分だ。

    高校の入試の合格発表の時だ。僕は、目指していた公立高校を落ちてしまった。僕の家は、一昨年前に父親が亡くなっていて母子家庭で、お世辞にも余裕がある生活じゃない。それに僕には5歳離れた双子の弟がいる。高校に行くくらいはなんとかできそう、ギリギリだけどという感じだった。公立がだめでも、私立でもなんとするよと母親は明るく言っていたけど、家計が苦しいのは知っていた。
    おまけに、昨日の夜、母親が悲しい声で、実家の祖父母に電話をしているのを聞いてしまったのだ。勤めている会社が倒産しそうで、給料が遅配になっているというのだ。
    こんな中でお金のかかる私立高校に行くことになったなんて、言えない、と僕は思った。志望していた公立高校は、長年のあこがれの高校でもあったんだ。
    僕は、合格を喜ぶ人ごみから離れ、あるいた。頭の中は真っ白だった。どこをどう歩いたのか覚えていない。ふらふら歩いていたら、転んでしまった。雨が降った後で、地面がぬかるんでいた。服も泥まみれになる。
    気が付いたら、川の近くにいた。泣きながら川面を見ていた。
    その時、声がかけられたのだ。
    「どうしたんじゃ?」
    細い変な声だった。
    「なにを泣いているんじゃ?」
    あ、この声は、子供のころテレビで見た再放送の日本昔話みたいだ。
    あたりを見回すが、人影はない。
    「ここじゃ、ここ」下からの声だ。
    足元を見ると、小汚い塊が動いている。手のひらに乗るくらいの、小さな。
    僕は足をすくめた。変な虫だ。この声は、気のせいだ。
    「なぜ泣いておるんじゃ?」と汚い塊が言う。よく見ると、それは、人間のような姿かたちだ。しかも、あれだ。昔風の変な頭巾みたいなのをかぶってて、だぼだぼの着物を着ていて、身体の割に大きな頭陀袋をしょっている。
    これは幻覚だ。あまりのショックに頭がおかしくなっちゃったんだ。
    「だれ?」と僕は聞いた。
    小人は、わっと声をあげた。「なんじゃ、男か。驚いた」
    僕は、袖で涙をぬぐった。そうだよ。悪いかよ。僕は童顔で、もう中三になるのに時々女の子に間違えられる。背はそれなりに伸びたけど痩せて手足もひょろひょろしてて、ちっとも男らしい体形にならないのが悩みだった。こんな時にまでそう言われるなんて。
    「いや、男でもいいんじゃよ」と小人は僕をなだめた。「なんで泣いているんじゃ?」

    僕はその変な小人に、受験に落ちたこと、母親が仕事を失いそうなこと、うちの家計は火の車のこと、そのほか色々、全部打ち明けていた。今から思えば、警戒していた僕からこういった話を引き出すあたりは、神様っぽいところなのかもしれない。
    小人は、ふむふむと僕の話を聞いていた。そして言った。
    「その程度で大泣きするとは、最近の若いもんは、なんたる軟弱。しかし、まあいいじゃろう。小僧、なにか、食べるものは持っていないか?」
    「え?」僕はまた驚く。今この時に食べ物って、なんだよ。
    「腹が減っては何とやらと言うじゃろう。今時の若いもんはそんな言葉も知らないかもしれんが。とにかく、食べ物は、ないのか?なんでもいいぞ」
    僕は、わけがわからないままに、カバンを開けた。今朝、自分で握ったおにぎりが一つ入っている。どうせ食欲はないんだ、と小人にあげた。
    小人はラップで包まれたおにぎりを両手で受け取った。そして高々と持ち上げる。すると、驚いたことに、おにぎりは一瞬で消えた。
    口がぽかんとなっていたのだろう。小人がみっともないから閉じろ、と言ってきた。
    「これでよし。お前には恩義ができた。これからわしはお前と同体じゃ。お前は福の神付きになったんじゃ」
    そういうと、汚い小人自称「福の神」は僕の肩に乗ってきた。
    「まずは、家に帰ろう。ご母堂が心配しておられるだろからな」と福の神は言った。

    そしてその日母は確かに心配していた。僕の友達から、僕が志望高校は落ちたときいていて、ちっとも帰ってこないから、どうしたのかと思っていたのだ。
    母の心配は僕が帰ってこないということだけで、それ以外のことはなにも心配していなかった。
    なんと、遠い親戚からの遺産が転がり込んできて、お金の心配はいらなくなっていたのだ。
    母が勤めていた会社も急に商品の大型受注が決まり、危機を脱しそうだ、ということだった。
    僕の肩に乗った福の神は、どうだ、という自慢げな笑みを浮かべていた。
    それ以来、僕の肩に福の神がいて、あちこちに福をふりまくことになっている。

    あれから10年、福の神は僕のそばにくっついて離れない。
    僕が通いだした私立高校は次の年からたいした理由もなく人気校になり、入学希望者が倍増した。僕の母は、遺産を元手に長年の夢だった輸入雑貨の店をはじめて、今では国内で複数の店舗がある。海外にも店舗を出店予定だ。ECサイトも大繁盛らしい。最近は、イタリア人の恋人兼ビジネスパートナーができて、一年の半分は海外で買い付けに行っている。
    双子の弟たちは大学生でそれぞれ有名大学に行っている。二人ともスポーツ万能の優等生だ。
    で、僕はと言うと私立高校をでて、普通の私立大に入った。スポーツも勉強も一向にぱっとしない。就職活動で受けた大手企業はことごとく落ちてしまった。僕がいた私立大は、当然のように人気がでて、受験者数もうなぎ上りだっていうのに。僕の回りの人はみんな何かしらの幸運に恵まれ、豊かになっていくのに、僕にはその幸運がないんだ。
    「それはそうじゃ。お前は福の神付きなんじゃから」と不満をぶつける僕に福の神が言った。
    「福の神付きってなんだよ」
    行きたかった会社に落ちた通知を握りしめて、僕はベッドに突っ伏した。
    「福の神みたいなものじゃ。人間じゃから神にはなれん。だから『付き』なんじゃ。福の神は、福を与えるんであって、自分がもらうんじゃないぞ。わしも、いい生活はしとらんだろう」
    「知るかよ。じゃあ、僕はもう『付き」はやめる。誰か僕の身近な人に憑りつけよ。で、僕にも福をよこせ』
    「人間が考えそうなことじゃな。そんなことはできんのじゃ」
    「なんで?」
    「そういうものだからじゃよ」と福の神はしたり顔で言った。どうせ、理由は知らないから説明できないんだろう。

    結局僕は、小さなPR会社に就職した。社長は大手広告代理店にいて、独立してまだ数年。
    知り合いの紹介だった。
    福の神はずっと僕の近くにいる。もっぱら僕の肩に。僕は、中学三年の時からそれほど変わっていないような気分になる。相変わらず童顔の女顔で、やせっぽっちのままだ。
    僕の面接をしてくれて採用を決めてくれた川上さんは今の僕の上司だ。社長が独立する前からの部下で、会社作るなら自分も辞めますとおしかけ社員になった人らしい。
    僕は、仕事に興味があったわけではないけれど、他に行く先もなく、勤めだした。上司も先輩たちもいい人で、丁寧に仕事を教えてくれた。
    そして、案の定、会社には案件が多く入ってきて、お客さんも増え、売上は伸び調子になった。僕が入ったせいだろうな、と思っていた。そりゃあ、社長や上司やみんなの努力もあるだろうけどさ。
    小さいけど注目の会社として業界では知られるようになっていった。

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    コメント

    作者紹介

    • ぶどうのあき
    • 作品投稿数:40  累計獲得星数:533
    • 葡萄は好きな果物です。葡萄っていう文字も好きです。葡萄から作るお酒も好きですが、レーズンは苦手です。
      読んでくださっている方、ホシくださる方ありがとうございます!

      お知らせ
      「満ち潮を待つ間に」はR18にしました。
      タイトル間違えてました。自分の作品なのに世話ないな。。。

    • 関連URL
      ぶどうのあきブログ:http://budonoaki.hatenablog.com/

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