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シリーズ:彼女と私の事情
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彼女と私の事情

作者:ひせみ綾

  • 無料作品 有料作品:¥0(税込) R18
  • 編集協力者:

    無駄にするんなら私に頂戴。あんたの寿命


    登録ユーザー星:6 だれでも星:4 閲覧数:110

    彼女と私の事情 6006文字

     

     私と真雪(まゆき)が幼馴染みなのは事実だけれど、それは単に双方の親の都合だっただけ。たまたま社宅のお向かいに住んでいて、同じ幼稚園に通っていたからに過ぎない。
     体が弱いのに性格がきつくて、言いたいことをずけずけ言う真雪は、きっと病弱だからこそ、子供の頃から両親に甘やかされ続けてあんな我儘で無神経な女の子に育ってしまったのだろう。
     見た目だけは、人形のように綺麗な綺麗な真雪。名前の通り、透き通るような白い肌、陽にも透けないくらいの真っ黒い長い髪。確かハシバミ色、というのだったか、金色に赤味を混ぜたような神秘的な瞳は潤んで物憂げで。どうしたって、人目をひかずにおかない。
     同年代の誰よりも整った容姿の真雪の隣を歩くことを苦痛に感じるようになったのは、中学三年のときだった。
     その当時、クラスに気になる男の子がいた。小学生のときだって男子とまともに喋ることも出来ずにいた内気な私に積極的に話しかけ、冗談を言っては笑わせてくれた子。バスケが得意で明るくてクラスのムードメーカーだった人気者。
     その年のバレンタインデー、同じクラスの女子たちに背中を押されたこともあり、一世一代の覚悟でチョコレートを渡そうとした。あのときの彼の戸惑い困り果てた顔が今でも忘れられない。
     彼は、隣のクラスだった真雪に想いを寄せていて、いつも真雪と登下校を共にしていた私を通して彼女に近づきたかっただけなのだ。
     彼に悪気が無いことは分かっていたけれど、家に帰りベッドに潜り込んで、私は泣いた。口惜しさと恥ずかしさと情けなさが綯い交ぜになって、死んでしまいたいくらいだった。
     程なく彼は父親の仕事の都合で転校していった。真雪は表情一つ変えなかった。というより、彼の存在なんか眼中になかったのだろう。私が特別に想っていた人さえ、真雪にとっては道端の石ころ同然なのだ。一ヶ月近く眠れず食事も喉を通らず憔悴しきった私に対しても、真雪は、いたわりの言葉一つかけてくれることはなかった。
     そのときから、私は真雪が嫌いになった。というより、真雪に対してひどい劣等感を覚える自分自身が嫌いになった。美しい真雪の横に立ちたくなかった、惨めな引き立て役になるだけだから。
     真雪に対してそんな感情を抱くことになるなんてそれまで想像もしなかった。綺麗なだけでなく毒舌だけど怜悧な真雪は私の理想で憧れの存在でもあったのに。五年生の林間学校では、お揃いのお土産を買って交換し合うくらい仲が良かったのに。
     それでも、大学に入学したこの年まで真雪との繋がりを断たなかったのは、私にとって彼女以外に友人と呼べる存在が居なかったからだ。胸の裡で真雪への暗い感情を密かに育てながら、私は生きて来た。


     大都会なら、8階建ての建物なんて、珍しくもないどころか周りの高層ビルに埋もれてしまうちっぽけなものでしかないだろうが、片田舎のこのK総合病院は、ちょっとした高台に建っていることもあり、屋上に登れば自分が住んでいる町を一望出来る。
     夏の終わりを告げる少しだけ冷たい風が、私の頬に触れては離れて行く。まだ空は昼間の名残で明るいが、もう少ししたら陽が傾く時刻だ。
     ポケットからスマホを取り出し時間を確認する。さっき同じ動作をしてからまだ5分しか経っていない。
     呼び出したのは真雪のほうなのに。
     苦い気持ちが込み上げてくる。
     本当は、突然の一方的なメールに応える義理などなかった。先約の飲み会を優先したって良かったのだ。でも、母親にこう諭された。家族ぐるみの昔からの付き合いなのだからお見舞いは当然だし、真雪ちゃんが会いたがっているなら、予定を変更してでも行くべきでしょう、と。
     高校卒業の時期くらいから意図的に、真雪と少しずつ距離を置くようにしていたので、真雪が先月からK病院に入院しているなんてことも私は知らなかったけれど、母親は真雪のお母さんと頻繁に連絡を取り合っているため、私よりも情報が早い。
     私に会いたがっている。あの、真雪が。
     そんなことを言われたって、心はぴくりとも動きはしなかった。私はもう小学生のときのように、真雪に呼ばれたからって、尻尾を振って彼女の元に走って行く仔犬じゃあない。
     腹立たしく思いながら、それでも私はサークルの飲み会幹事に断りのメールを入れた。
     真雪の見舞いに行くことを決めたのは母親の言葉に従ったからではない、ちょっと意地悪な趣向が頭をもたげたからだ。真雪は高校を卒業してから進学も就職もせず、いわゆる「家事手伝い」として自宅で過ごしていた。かたや、私は女子大生だ。ステータスは今や私が上。念入りに化粧をし、取って置きのワンピースとパンプスで着飾って出掛けてやろう。そんな私を前にしたら、病室でなんのお洒落も出来ない真雪はどんな顔をするだろう。今度は、彼女が私の引き立て役になる番だ。
     ところが、病院に着いたら着いたでまたしても驚かされた。真雪の個室のドアをノックしたら、中から出て来たいかつい顔の看護師女性に、屋上で待つように指示されたのだ。真雪がそう言っている、と。
     呼びつけておいて部屋にも入れず、今度は屋上に行けってか。
     一体、何様のつもりなのよ。小指一本で他人を自由に動かせるとでも思っているの。
    「相変わらずブスな顔ね、美鈴」
     声に振り向くと、そこに真雪が立っていた。 
    「あ、失礼。訂正するわ。ぶすくれた顔ね、って言いたかったの」
     真雪と顔を合わせるのは、実に半年ぶりだ。
     私の予想を、いや、期待を裏切って、真雪は、変わっていなかった。
     病院お仕着せのピンクのパジャマに白いカーディガンを羽織ったダサイ格好で、口紅一つつけていないのに、それでも息を呑むくらい綺麗だった。
     長期入院患者とは思えない薔薇色の頬、記憶にあるのと同じ艶やかな黒髪。最上階のレストランフロアに通じる赤錆びた鉄の扉を背にして普通に立っているだけなのに、そこだけスポットライトが当たっているみたいに輝いて見えた。
     女王様然とした真雪の姿に気圧されそうになりながらも、私はなんとか踏みとどまった。
    「久し振り。あの、私に会いたいって聞いて」
     ダメだ。口惜しい。やっぱり真雪の前だとどうしても委縮してしまう癖が抜けていない。
     カフェでお茶するとき当然のように上座に座る真雪。私のお気に入りの持ち物にあれこれ難癖をつける真雪。文句を言ってやりたいのに、反論してやりたいのに、いつも言葉がうまく出て来ない。
    「会いたい?私があんたに?ふふん、まあ、そうね」
     完全に私を見下した口調で、真雪が嗤う。
    「実は、あんたに頼みがあったのよ」
     真雪が一歩足を踏み出す。無意識に同じ歩幅を後退ってしまった。
     なんだろう、この威圧感。いつもとどこか違う。
    「ひッ」
     足元に落とした目線を上げた次の瞬間、私は声を上げそうになった。どうやって距離を詰めたのか、真雪が目の前に立って、私の顔を覗き込んでいたからだ。
    「ねえ、美鈴。あんたさ、そんなんじゃ生きててちっとも楽しくないでしょう」
     金色に朱を散らした真雪の双眸が真っ赤に燃えているみたいに見えた。紅を差しているわけでもないのに赤い唇が三日月形に吊り上がる。
    「え、あの。真雪、いったい何を言って」
     後退るうち、私は屋上のフェンス際にまで追い詰められていた。もう、後がない。
     なに。これ、なんなの?
     なんの冗談?
     怖い。悲鳴をあげたいのに、大声で助けを求めたいのに、声が出ない。
    「だからあ、無駄にするんなら私に頂戴。あんたの寿命」
     真雪の、いや、真雪の姿をした別の何かの手が私の首にかかった。そして華奢な白い指が信じられない力で、首を絞め上げにかかる。息が詰まった。
     イヤ。苦しい。やめて。
     死にたくない。
     そりゃ、私は冴えないけど。人と付き合うことが苦手な、本ばかり読んでいる根暗で猫背の女の子だけど。でも、せっかく入った大学でもっともっと勉強したい。世の中を知りたい。恋愛っていうのもしてみたい。バイトとかもしたい。知らない土地に旅行に行ったり、ブログを始めたり、自分がこの世に存在しているっていうことを証明してみたい。
     でも、それもこれも何も出来ないまま、こんなところで怪物に殺されるの?

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    コメント

    • 堆積したコンプレックスの砂山が、風にさらさらと流されて緩やかに解していく。そんな幻想的なあったかい風を感じました♪ それを可能とする心理描写がさすがの書き手でありました('ω')ノイェイ
      しかし、また一方では【さすが】の書き手でもあるため、どこかですべてのストーリーを台無しにするかのような支離滅裂な爆弾投下が来やしないか(たとえば、突如ふなっしが空から降ってきてサブイベント突入→主イベント乗っ取り、とか)を警戒してみましたが、最後まで良く274登場イベント挿入を我慢できたぞな、とその点にも並々ならぬ称賛を送りたいと思います♪テヘ 
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    • おや?いきなり詩人が舞い降りたΣ(゚Д゚) と思ったら鹿さんではなかとですか。閲覧+コメありがとなっしーーー・( ̄∀ ̄)・:*:
      屋上でのラストシーン、夕焼けの空が割れ、274体のふなっしが降臨し病院を占拠するスプラッタパニックホラーな流れで書くつもりだったのですが、それだと余りに王道過ぎて在り来りなので、意表を突くショッキングな展開にしてみました゚・✿ヾ╲(。◕‿◕。)╱✿・゚:✲:♬♫♬
      楽しんで頂けましたでせうか。にょほほ。
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    • 梨さま、遊びに来させていただきました!
      ホラーだと思って、用心しながら読んでいたら……
      不覚にも、足もとをすくわれました(;O;)
      できるなら、この不器用な少女たちに時間を取り戻させてあげたいです!
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    • わー、ミオナさん、ようこそいらっしゃいませ( *´艸`)
      ホラーだと思って読んでいたら、これっぱかしも怖くないオチでした(笑) 
      『不器用』という言葉が、ヒロインの二人にすごくピッタリで、ハっとさせられました。素敵なコメントをお寄せ頂き有難うございます:*:・(*´ω`pq゛
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    • 内容もさることながら、タイトルの下の文字が気になって気になってひせみさんに何があったんだ。その方がミステリーだったりもしたのですが。私も気持ちが弱っていて。ああ現実とは非情な物でままならないものだなぁ。もうだめかもわからんね。厳しすぎてとてもたちうちできんと凹んでいたところに、このどうにもならない友達のお話が目にはいり、むしろこのタイミングで妙に励まされた気がしてならないわけです。自分命があるだけ良いとしよう。と。(意味不明な感想でごめんなさい)
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    • 閲覧有難うございます。
      概要(タイトル下の文字)、ただ単にふざけて書いただけなのですが、ご心配お掛けしたみたいですみません。ほかの文章に修正しておきます。
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    • いえいえ@@;こちらこそすいません。勘違い@@;しかも愚痴ってる(;´Д`)(笑)すいませんです。何事もなくほっとしましたです!
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    作者紹介

    • ひせみ綾
    • 作品投稿数:71  累計獲得星数:1031
    • ▲自己紹介▲
      梨と申します。小説っぽい駄文やイラストっぽい落書きを投下したりします。両親は普通の梨の木、芋虫とのハイブリッドの弟はいません。


      ◆成分の8割強が、熱血バトル少年漫画で構成されています。あとの1割弱が、梨です。

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