upppiは縦読みコミック(タテコミ)・イラスト・小説が無料で楽しめるサービスです!

ようこそ!ゲストさん
シリーズ:ミエル男
閲覧数の合計:89

作品を編集する

  • シリーズタイトル・ジャンルの修正
  • この章を改訂する
  • この章を削除する
  • シリーズに作品を追加する
  • 表紙画像の変更

ミエル男

作者:ひせみ綾

  • 無料作品 有料作品:¥0(税込) R18
  • 編集協力者:

    ふなふなファイアー エンドレスナイト♪♪♪


    登録ユーザー星:2 だれでも星:4 閲覧数:89

    ミエル男 5369文字

     

     喉が渇いて目が覚めた。枕元の時計、蓄光デジタルの表示はお約束の午前二時。草木も眠る丑三つ時だ。
     左脇腹辺りで上掛けがもぞりと動く。一年程前、当時住んでいたおんぼろアパート裏手の神社で拾って以来の相棒、ナッシーが潜り込んでいると見える。毛が抜けやすいこの時期は、ソファはともかく、ベッドには上がるなと口を酸っぱくして言い聞かせているというのに。まあ、幾ら言ったところで仕方ない、相手は獣だ。
    「困ったヤツだなあ」
     呟いて薄いタオルケットを捲りあげると、そいつはそこに居た。
     ナッシーではない、女だ。
     もつれ絡まり合う長い黒髪。折り曲げた自分の腕を枕にするような形で、俯せになっている。不自然なくらいに捻じ曲げられた首が動き、突然に半身を起こすと、此方を向いた。
     女が顔を近づけてくると同時に、強烈な腐臭が鼻を衝いた。
     鈍器で滅茶苦茶に殴られでもしたのか、右半分が陥没した頭蓋から脳漿が流れ出している。言うまでもないが、顔面は血まみれだ。潰れた頭と同じ側の目玉は何処に落としたのやら、黒々とした眼窩がぽっかりと口を空け、その周囲を白い虫らしきモノが這いずり回っている。女の、残った左目がいきなり裂ける程に見開かれ、と同時にぐるりと反転して白目になった。
     ここで「ぎゃあ」とでも悲鳴をあげてやれば、こいつは満足するのかも知れない。でも、そんなことをしたところで、別に俺が何か得をする訳ではない。
     溜め息ひとつ漏らし、無言のまま、俺は女をベッドの下に蹴落とした。
     女は、片方しか無い目で恨みがましく俺を見上げ、やがて、空気に溶けるようにかき消えた。
    「仕方ない、仕事するか」
     俺は、一度睡眠を中断されてしまうと、なかなか寝付けなくなる性質(タチ)だ。作業用のデスクに腰掛けノートパソコンを立ち上げると、足元にナッシーが体を擦りつけてきた。長い尻尾を巻きつけ、足首を甘噛みする。甘噛みとは言え牙が鋭いので、ちょっとだけ、痛い。
    「よしよし。仕事が終わったら、おやつをあげるからな」
     足先でナッシーをあやしながら、自慢のタイピングスピードで文字を打ち込んで行く。この仕事である程度のカネが手に入れば、この部屋とはおさらばだ。次は何処に住むことになるのか、それはまだ決まっていない。目線を落としナッシーを見やると、まん丸い青い目が俺を捉えた。
     昔から、猫は人ではなく家につくとよく言われるが、猫でなくたって犬でもウサギでも、いや、人間の子供だって、短いサイクルで繰り返される生活環境の変化を喜ぶ筈はない。今の俺みたいな、こんな根無し草の引越し生活、ナッシーだって本当は厭だと思っているのかも知れない。でもこいつは文句など言わない。
     書き上げたばかりの原稿の送信を終え、片手をナッシーの首元に挿しいれると気持ち良さそうに喉を鳴らす。可愛いヤツだ。
     

     俺と相棒の新しい住まいは、住宅街から少し外れた、そこそこ小奇麗なマンションだった。いつもと同じように社長が手配してくれた。俺は、最低限の電化製品と寝具一式、僅かな身の回り品だけを持って、そこに移った。どうせ、この部屋にだって、逗留は長くても二か月だ。それに、ノートパソコンさえあれば、仕事はどこでだって出来る。
     俺の職業は、ライターだ。
     大学を卒業し就職した出版社が一年半前に潰れ、少しの間はフリーランスを気取っていたが、すぐに生活が立ちいかなくなった。その当時、俺を拾い仕事をくれたのが今の社長で、ナッシーとの出会いも同じ頃。
     社長と社員、といっても、自慢出来るような社屋や事務所があるわけではない。人数だって社長と俺二人だけの超零細だ。業種は、某業界専門サイトの運営。サイトの管理は全て社長が一人でこなしており、取材と、寄稿するのが俺の仕事だ。
     荷物を片付ける間、ずっとキャリーケースに閉じ込めたままだったナッシーは、かなりご機嫌斜めで、抱き上げようとした俺の手を引っかいた。やれやれ、これは、晩飯を奮発してやる必要がありそうだ。
     新居に越して三日目の晩、早くも怪異は現れた。くぐもった、呻き声のような啜り泣きに起こされたのだ。
     寝惚けまなこで部屋の隅を見ると、子供が一人、壁側に顔を押し付けるようにして蹲っている。あちこちが破れたボロボロの服を身に着けた小学校低学年くらいの男の子だ。
     声を掛けてやる義理も無いので、そのままベッドに座っていた。
     このシチュエーションだと、あの子供はそのうち振り向いて、いざりながら此方にやってくるのではなかろうか。距離的には3メートルも無い。そう思っていたら、案の定、子供は俺のほうを向いた。そしてやはり、這いずるようにして近づいて来た。予想と違っていたのは、破れた服を着ているのではなかったことだ。身体のそちこちから垂れ下がっているのは、服の生地ではなく、切り裂かれた当人の皮膚だった。また、息が詰まる程の死臭が部屋の狭い空間に充満していくのを感じた。
    「ったく。勘弁してくれよ」
     眠くて仕方ない。でも、見届ける必要がある。それが俺の仕事だから。
    「そんで。オタクは、何がしたいの」
     死者と生者との間にコミュニケーションは無い。俺だって、相手に通じると思って話しかけている訳ではない。
     生前に親か誰かに凄惨な虐待でも受けていたのか、子供の四肢は、それぞれが、健常な人間には有り得ない方向に曲がっていた。それでも子供は真っ直ぐに俺の元へやって来た。
     暫しの間、見つめ合う。子供の目には、瞳孔も光彩も無い。白濁したビー玉が嵌め込まれているような感じだった。子供は口から泡を吐き続けていた。ネイチャリング特番でよく見る蟹みたいで、少し笑えた。
     驚いたことに、子供はベッドに腰掛けた俺の膝に両手を置いた。物理的に生者に触れてくる霊というのはそう多くはない。余程、この世への執着が強いか、なにか訴えたいことでもあるのだろうか。
     でも、そういう事情に耳を傾けるのは俺の役目じゃあない。頼むから、何処ぞの口寄せ達人か、修行を積んだ霊能力者にでも縋ってくれ。
     あまり良い状況とは言えなかった。俺は、霊に対しての恐怖心というのは元来薄いほうだが、ちょっと身の危険を感じた。念の強過ぎる霊は、時として生者の精神や身体機能にダメージを与えたり、最悪の場合は死をもたらしたりもする。
     困ったなーと思っていると、ベッドで丸くなっていたナッシーが突然身を起こし、俺の膝の上に飛び乗った。子供を正面から見据え、威嚇するように背を丸くして、ナア、と一声あげた。 
     驚いたのだろう、子供の霊は、俺の体から手を離した。というより、見る間に姿が希薄になり、数秒経たないうちに空中に霧散した。消え去る間際、子供は、実に口惜しそうな顔をした。
    「よしよし、有難うな」 
     俺はナッシーを撫でてやった。頼りになる相棒だ。ナッシーが喉を鳴らし、ご褒美をねだるように俺の顔を舐め回す。恋人の愛撫みたいだ。
    「こらこら、目玉に舌を入れるなって」
     俺の頬も瞼も、涎でべとべとだ。
     さてと、こうしてはいられない。記憶が鮮明なうちに、いまの出来事をレポートにまとめなければ。
     そう、俺は、ゴーストライターだ。と言っても、有名人の名前で売りだされる著書を代作する影の人間を意味するアレではない。文字通り、幽霊に関する記事を書いているのだ。


     事故物件、というのを聞いたことがあると思う。自殺や他殺、孤独死、事故死、変死など、その部屋或いは敷地内で死人が出た場合に一般的に使われる用語で、心理的瑕疵物件とも言われる。当然、そういった物件には誰も住みたがらないので、家賃や敷金を通常の相場より遥かに安価に設定せざるを得ない。
     相場に比べて極端に安い部屋となれば、誰しも何かあると気づくに決まっているが、不動産屋は広告にそんな話を詳しくは載せない。死者当人やその家族のプライバシーに関わるからだ。
     現状、賃貸物件であれば、告知義務は直後の借主に対してのみ発生し、それ以降の借主には告知しなくてもよい、同時に、家賃も通常に戻してよい、という考え方が主流になっている(法律に則った明確な規定は存在しない)。
     それを踏まえて『事故物件にその直後に数週間或いは数ヶ月住む』アルバイトをした、家賃は勿論ロハで、バイト代は高給、と酒の席で自らの豪胆さをアピールする学生が居たりもするらしいが、現実にはそんなバイトがある筈はない。都市伝説のようなものだ。第一、次の借主へ告知せず通常額の家賃を請求するためのクッション役の住人が必要なら、わざわざ高いバイト代を出して他人を雇い一ヶ月もタダで住まわせなくても、身内に頼むか貸主が自分で住めばいいだけの話だ。

    ←前のページ 現在 1/2 ページ 次のページ→

    1ページ目に戻る
    ▤ 目次ページに戻る


    お気に入りリストに追加 この作品を応援する

    応援ボタンを押す事で作品の★が増え、作者に「イイね!」を伝える事ができます。

    コメント

    • ふなふなファイアー エンドレスナイト♪♪♪ だとっ!!
      流麗な文体は相変わらずどんなタイプの作品にも変幻自在って感じで、著者のアイデンティティとして確立されている印象を受けます☆ 期待を抱きつつ、安心して読み始められます(^^)/ そんなわけで続編希望('ω')ノ 主人公とナッシの物語はエンドレスナイト♪
      • 1 fav
      • Re 返信

      を押す事で、投稿者に「イイね!」を伝える事ができます。


    • 鹿さん、コメありがとなっしー(≧▽≦)!!!
      今回投下作のなかで、自分的にはいちばん気に入ってるんだけど、なかなか閲覧数延びなくて(笑)  ちゃんとゆるふわなコメディになってたなしか!?

      キミのその想いは船橋への片道切符 高く跳んでヘドバンかまして~~~♪♪
      『ふなふなファイアー エンドレスナイト』で動画検索してください。歌って踊る大迫力のふなに圧倒されます\(◎o◎)/! これを見たらたちまちふなの信者です。※原曲はボカロ??
      の曲らしいけど、オイラはボカロとやらに興味も関心もない((+_+))
      • 2 fav

      を押す事で、投稿者に「イイね!」を伝える事ができます。


    • めっちゃうたっておどてるやん!!マジ ワロタヽ(^。^)ノ
      • 1 fav

      を押す事で、投稿者に「イイね!」を伝える事ができます。


    • ワロタですと(゚д゚)!!
      そんなおばかな。。。おかしいなー。普通なら、あの神々しさを目の当たりにしたら、思わずふなにひれ伏したくなる筈なんだけど。。。

      ふなふなファイアー エンドレスナイト すべてを捨てて飛び跳ねろ~~~~!!!!!
      • 2 fav

      を押す事で、投稿者に「イイね!」を伝える事ができます。


    作者紹介

    • ひせみ綾
    • 作品投稿数:71  累計獲得星数:1031
    • ▲自己紹介▲
      梨と申します。小説っぽい駄文やイラストっぽい落書きを投下したりします。両親は普通の梨の木、芋虫とのハイブリッドの弟はいません。


      ◆成分の8割強が、熱血バトル少年漫画で構成されています。あとの1割弱が、梨です。

      ◆フォローの際は、どこのページからでも構いませんので、コメント欄で一声かけて頂けると嬉しいです。まったく知らないヒトからの無言フォローは、ほんのりイヤ(^_^;)

      また、一定期間(半年以上)交流のないフォローさんはリムする場合があります。悪しからずご了承ください。


    • 関連URL
      :

    この作者の人気作品

    小説 ホラーの人気作品

    続きを見る