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シリーズ:凶運の女
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凶運の女

作者:ひせみ綾

  • 無料作品 有料作品:¥0(税込) R18
  • 編集協力者:

    昨年のぷちほらこんに出した同名タイトルの改定版。というかこっちが元ネタ。


    登録ユーザー星:4 だれでも星:3 閲覧数:71

    凶運の女 4181文字

     

     とかく、この世は住み辛い。
     雅代がそう思い始めたのは、小学校低学年の頃からだった。随分と早熟な、どころか老成した子供だったには違いないが、歳を重ねるにつれ、その感覚は薄まるどころか、より強固なものへと変化していった。
     どこへ行こうが、誰と居ようが、どんなときでも不愉快な出来事はついて回る。この世は碌でもないということを幸いにも忘れかけているときもあるが、やがて誰かがちゃんと思い出させてくれる。
     つい先刻もそうだ。
     数年振りに会う女友達と二人で食事し、その後、軽く飲み直そうと近くの居酒屋に河岸を変えた。まだ飲み物の注文も終えていないというのに、斜め後ろの席に陣取っていた男たちのグループが、雅代たちを見て何やらざわつきだした。大学生、ではない、年齢的にはその辺りなのだろうが、もう少し崩れた感じの、あまり堅気には見えないような連中だ。
     なんとなく嫌だなあ、と思っていると、案の定、グループのなかの一人、茶髪にピアス、捲りあげたTシャツの袖口からトライバルのタトゥーをこれ見よがしに覗かせた軽薄そうな男が自分のグラスを持ったまま近づいて来て、許しも得ずに雅代の隣に座った。
    「お姉さんたち、二人ですかあ?」
     見れば、分かるだろうに。
    「俺たち、ヤローだけで飲んでるんですけど、良かったら御一緒しません?ご馳走しますよ」
     言いながら、男は顔を近づけてくる。もう大分酔っているのだろう、息が酒臭い。
    「結構です」
     にべもなく断るが、相手はまったく退く気配が無い。
    「ええ〜。そんなツレないこと言わずにさあ。店員さん、このお姉さんたちに生ビール。会計は、俺たちにつけて」
     余計なことをするな。そんな台詞が喉元まで出掛かるが、女友達のミヨコにちらと目を向けると、この状況を喜んでいるように見える。学生時分から地味で男っ気が無いミヨコのことだ、たまには若い男たちにチヤホヤされて華やいだ気分を味わいたいのだろう。
     でも、雅代は違う。
     色白でくっきりとした目鼻立ちの雅代は、露出の多い服装をしているわけでも、香水の匂いを遠くまで撒き散らしているわけでもないのに、しつこいナンパ男に昔から辟易させられてきた。纏わりつかれてつい声を荒げると、逆ギレするクズ男のなんと多かったことか。
    「申し訳ないんだけど、今夜は、久し振りに会えた友達とガールズトークを楽しみたいの。次に会ったときは付き合うから」
     勿論、その場しのぎの嘘だ。
     誰がおまえらなんぞと付き合うものか。失せろ。消えろ。
     失せろ、死ね。
    「お姉さん、綺麗なのにガード固いなあ。そういう女って余計ソソルよね。いいじゃん、一緒に飲むくらい」
     掴まれた腕を、雅代は反射的に振り払った。男が手にしたグラスが激しく揺れ、飛沫が肩のトライバルを濡らした。
    「なにしやがんだ、このメス豚」
     男は態度を一変させた。
     なんだ、こいつも逆ギレタイプか。
    「ここ出よう、ミコちゃん」
     席を立ち、ミヨコを促す。未練がましく男たちを振り返りながら渋々といった風情で、ミヨコも雅代の後をついて来た。仲間たちが茶髪の男を宥めているのが目の隅に入った。当然、誰も追っては来なかった。
     その後、比較的静かで落ち着いたバーでミヨコと二人で飲んだが、会話はさっぱり弾まなかった。お互いの近況を気の済むまで語り合いたかったのに。雅代と違って行動的なミヨコのお薦めスポットについて聞きたかったのに。転職したばかりの新しい会社での愚痴も聞いて欲しかったのに。ミヨコは、若い男とはしゃげる折角の思い掛けない楽しい夜を雅代が台無しにした、と言わんばかりの不満顔を崩さず、おまけに、雅代に説教を始めた。
    「たかだか一刻のことじゃない。ちょっと付き合って軽くあしらってあげれば、あんな憎まれ口叩かれずに済んだのに。だいたい、雅代は不器用だし、おまけにストイック過ぎるのよ」
     ちょっと待って。私のほうに非があるっていうの?
     思わず言い返しそうになるのを堪え、雅代は黙って水割りを飲み干した。
     再会の約束もせずにミヨコと別れ、タクシー乗り場で雅代は溜め息をつく。ホントに何もかも台無し。
     もう深夜に近い時刻で、タクシーを待っているのは雅代一人だった。腰掛けたベンチの横に備え付けの灰皿を見つけ、雅代はバッグから煙草を取り出し火を点けた。煙を深く吸い込み、吐きだす。そして思った。
     あの茶髪の男、無事でいられるだろうか。


     雅代は、魔女だ。
     初めてそれに気がついたのは、幾つの頃だったろう。
     雅代は、苛められっ子だった。昨今のように何人もの教育者がテレビで激論を交わす時代ではなかった。苛めや差別など、在って普通どころか当たり前だった。家が貧しく、母親が水商売だったから、雅代は当然のように標的にされた。
     ただ歩いているだけで、物陰から石が飛んで来た。学校では、色んなものを盗まれたり、壊されたりした。でも我慢した。先生だって見て見ぬふりどころか、苛めっ子と一緒になって笑っていたくらいだ、誰にも救けなど求められないことは、子供心にも分かっていた。
     ある日、苛めっ子のリーダー格のクラスメイトに、髪を切られた。当時の雅代が唯一自慢にしていた長い髪。お下げを引っ張られ、鋏で根元から切り取られた。彼らはそれを、戦利品みたいに笑いながら投げ合って遊んでいた。そのとき初めて、雅代は心の底からそいつらを憎んだ。だからといって、何をしたわけでもない。
     それから数日後、そのリーダー格の子供が死んだ。山へ山菜か何かを採りに行って、野犬の群れに襲われたらしい。全身引き裂かれて無残な死に様だったと聞いた。
     雅代は腹を抱えて笑った。笑いが止まらなかった。だって、こんな小気味良いことはない。でも、そんなのはただの偶然だとしか思っていなかった。そのときは。
     中学に上がる頃には、雅代は近隣の学校でも噂になる程の美少女に成長していた。羨ましがる者も少なくはなかったが、それのどこが喜ばしいことか雅代には分からなかった。目立つ容姿は仇にしかならない。クラスメイトの嫌がらせは相変わらず、どころかますます悪質になり、さらに今度は、不特定多数の男たちからの性的な視線までもが加わった。
     誰も雅代をそっとしておいてはくれなかった。
     雅代は世界を激しく嫌悪した。呪った。自分が周囲に寛容である必要などない、なぜなら、雅代を取り巻く世界が、そのすべてが、雅代に対してほんの少しの優しさをも示してくれないのだから。
     そして、そんな雅代の憤りに応えるように、現象はさらに続いた。
     雅代を物陰に引っ張り込んで体を撫で回した近所の酔っ払い親父が水死体になって川に浮かんだ。宿題を忘れた雅代を罵った嫌味な教師が、小さな女の子に悪戯したのが露見して社会的に抹殺された。
     学校を卒業し就職してからも、同じだった。今の事務所に転職する前、雅代は百貨店でアパレルの販売員をしていた。職場での新人いびりは、学生の頃よりさらに酷かった。おまけに、セクハラだのパワハラだの、そこら中に蔓延していた。雅代に意地悪をした先輩や上司は、皆、悲惨な目に逢った。通り魔に襲われたり、縁談が壊れたり、赤ん坊が突然死したり。
     そこまでくれば、嫌でも自覚しないわけにはいかなかった。
     自分は、無意識に凶運をばら撒いている魔女なのだと。
     溜め息が漏れる。
     別に誰かに復讐を望んだことなどない。心穏やかに暮らしたい。欲しいものはそれだけだ。
     半年前、いまの会社に転職してからは、それなりに波風立たない日々を過ごしている。当然のこと、完璧な人間関係などこの世の何処にも在りはしない。
     三十路過ぎての中途採用の雅代に胡散臭げな目を向けるお局様や、居丈高な態度の年下の先輩がおり、彼女らに陰口を叩かれていることは知っている。取引先からの自分宛ての電話を取り次いで貰えないことが多い気がするのも、きっと気のせいではないのだろう。それに先週、上司のミスをそれとなく指摘したら、ヒステリックに罵倒された。上司は頭頂が薄くなり始めた狭量な男で、雅代のような容貌の女に敵対心とまではいかないだろうが、ある種の劣等感のようなものを抱いている。おまけにそういったネガティブな感情を隠す程度の良識すら持ち合わせていないらしい。

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    コメント

    • 自分もこの作品と似たような経験をしていることが多々あります。因果応報ということでしょうか?バイト先で自分に辛くあっていた人がコンビニ強盗になったり、高校に入学してきた中学時代のいじめッこがいきなり居なくなったりもしました。
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    • 初めまして、コメント有難うございます(*´▽`*)
      。。。って、魔女がここにも《(;´Д`)》ブルブル ヒイイイ
      バイト先のかたは、コンビニ強盗犯になっちゃったんですか?それとも、コンビニ強盗にあっちゃったんですか??気になります。
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    • お久しぶりです♪ なんというか……自分は望んでない。いえ、最初は気分的には良かったのかもしれませんが、それが次第に重なってくると@@;私も昔自分に意地悪してきた先生とかいじめっ子がことごとく不幸にあったことがあって(不倫や集団いじめにあったらしい)ちょっと思い出したら怖くなりました。
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    • かにゃんさん、お久しぶりです。うわ、かにゃんさんの正体は実は魔女だったのですね(((( ;゚Д゚)))ガクガクブルブル
      というのはさておき、前回のホラコンのとき、能上さんとの会話でもうホラーは書かない、というようなことを仰ってましたよね。あれ以来、ちょっと心配していたのですが、無事に復帰されて喜ばしい限りです。* ゚ + 。・゚・。・ヽ(*´∀`)ノ
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    • いえいえ、本当は今回どうしようかと思ってたんですよーでもこういう時に限ってふっと浮かんでしまって(笑)またにぎやかしかもしれませんが、参戦させていただきました☆心配していただけて幸せでございます。ありがとうございます~(TT)
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    作者紹介

    • ひせみ綾
    • 作品投稿数:71  累計獲得星数:1031
    • ▲自己紹介▲
      梨と申します。小説っぽい駄文やイラストっぽい落書きを投下したりします。両親は普通の梨の木、芋虫とのハイブリッドの弟はいません。


      ◆成分の8割強が、熱血バトル少年漫画で構成されています。あとの1割弱が、梨です。

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