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夏休み日記

作者:朝来みゆか

  • 無料作品 有料作品:¥0(税込) R18
  • 編集協力者:

    GL小説『春はくちびるから始まる』スピンオフシリーズ。
    「パルテール」のメンバーに寄り添う小さなお話もラストになりました。
    第十三話:奈々。
    ここまでのおつき合い、ありがとうございました!


    登録ユーザー星:0 だれでも星:0 閲覧数:27

    夏休み日記 1194文字

     

     花火大会の後、倉知の住む寮に寄った。
     着慣れない浴衣を脱いで普段着でリラックス。小一時間過ごしてから家に帰る予定だ。
     洗面所で顔を洗って戻ると、体育座りの倉知が膝の上で手帳に何か書きつけていた。
    「何書いてるの?」
    「別に」
     ぱた、と閉じてしまう。
     どうしても隠したい意思は薄そうだったので、手を伸ばす。
     茶色の革表紙を開くと、目に入ってきたのは、たった一文。

    八月×日  はなびをみにいく。

    「……日記ならもっと詳しく書かなきゃ。誰と行ったとか、どんな気持ちだったとか」
    「面倒だし」
    「漢字も習ってない一年生みたい」
    「馬鹿にしすぎ」
     笑い混じりに倉知がすねる。
     以前は、おっとりした奈々を倉知をからかうのが、よくあるパターンだった。それはそれで悪くないけれど、最近は関係性が変わってきて、奈々も強気に出るし、倉知もそれを許してくれる。
    「じゃ、奈々先生がお手本書いてよ。夏休みの日記」
    「えー」
    「ほら」
     ペンを渡され、うながされて部屋の隅のテーブルに向かう。
    「紙は?」
    「そのあたりのチラシの裏で」
    「絵はなくていいよね?」
    「ご自由に」
     最初に日付を書けば、暗記した台詞のようにすらすらと文字が連なった。

    八月×日
     待ちに待った花火大会。浴衣を着た。わたしは青地に白の水玉。倉知はスカイブルーのひまわり柄。
     少し遅れて会場に着くと、もう花火は始まっていた。
     人目を避けて歩いたけれど、みんな花火に夢中でこちらを見ていなかった。
     夜の匂いに、屋台から漂う甘辛い匂いが混じって、懐かしい気持ちになった。
     肌がべたつく感じ、

    「……あ」
     ペンを取り上げられる。
    「まだ書いてる最中なのに」
    「もう充分」
    「勝手なんだから……」
    「立派な夏休み日記でしたね」
    「文才あるでしょー? 嫉妬した?」
     自慢すると失笑された。
     ぬるくなったペットボトルのお茶を飲みながら、今夜を振り返る。
    「光の後に遅れて音が鳴るじゃない? 音がしてから見ても遅いんだよね。みんなが、わあって言って、あわてて見上げたときには散ってた」
     大輪の花の命は一瞬で、その儚さを愛する文化だとわかっているけれど。
    「光が本番だとすると、リハーサルせずにいきなり本番だね」
    「実はちょっと見逃したの」
    「そうだったんだ?」
     花火を見ている倉知の横顔を見ていたから、とは言わない。
     日記にも書かない、心の中だけに置いておく秘密。
    「最後に音だけ残ったのがちょっとせつなかったかも」
     終盤の激しい打ち上げが夜空を明るく染めた後、連続した音が響いた。今も耳の奥に残っている。
    「主催者も、これが最後ですよ、って教えてくれないし」
    「肝心なときに見逃さないように」
    「うん」
     大丈夫。たとえまぶたを閉じても、本当に大切な光は感じられる。
     移り変わる季節を惜しみながら、倉知は新鮮な輝きと驚きで奈々の日常を満たすに違いないのだ。
    「今度、二人で花火しようか」
     ほら、こんな風に夏休み続行宣言。
     二人で綴る日記の、真っ白なページを開けて待っておこう。

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