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ひとりで過ごす日曜日

作者:朝来みゆか

  • 無料作品 有料作品:¥0(税込) R18
  • 編集協力者:

    「パルテール」のメンバーに寄り添う小さなお話。
    第十一話:スージー(由紀)。十三名それぞれの物語を三分で読める形に仕上げます。
    GL小説『春はくちびるから始まる』スピンオフシリーズ。

    日曜日かせめて月曜日にはアップするつもりが、意外に苦戦しました。


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    ひとりで過ごす日曜日 1196文字

     

     真昼間からお風呂に入る。
     狭い浴槽で膝を抱え、なじんだメロディを歌ってみる。続けて別の曲を。
     換気扇を回していないから、立ち込めた湯気が胸をふさいで苦しい。だけどこの苦しさを味わっていたいと思う。
     とめどなく歌い続けていると、頭がぼうっとして現実感がぼやける。
     遠くで電話が鳴っている音が聞こえる。気のせいか、空耳かな。あ、切れた。
     新しい歌は歌えない。次のステージに、スージーでなくなった自分は立てない。
     ぬるい水分を含んでふやけた身体が溶けてゆく錯覚。ほろほろと崩れる入浴剤のように。
     ただの色水になって、栓を抜けば流れてしまえるならいいのに。
     濡れて胸に張りついた髪をいじりながら由紀は、四方から浴びせられた言葉を思い返す。

    「どうしてあいつだったの? どうして今じゃなきゃいけなかったの?」
    「男にうつつを抜かして……お母さんの子やわ」
    「忙しいって言ってたのは嘘だったんだね。くだらない奴とつき合う暇はあったんだから」
    「アイドルとしての椅子も恋愛も手に入れようなんて、ずるいよ」

     そのどれもに言い訳できなかった。
     どうして、という問いに答えがあるなら、むしろ由紀自身が知りたかった。
     メンバーが責める通り、自分は弱くてずるい人間なのだろう。皆との間には深い溝があるのだろう。
     大勢のスタッフに囲まれていても孤独で心細くて、はまってしまった癒し。
     照れながらも情熱的に好きだとささやかれたとき、生きてきた中で一番幸福だと感じた。
     もしも出会いの前からやり直すとしても、結果は同じ気がする。
     あの優しい手をはねのけ、甘い声に耳をふさぐことなんてできやしない。
     潮に流されて南の島に打ち上げられるヤシの実のように、恋にたどり着く。
     そして独りになる。
     求めすぎた罰としての、孤独。
     由紀がパルテールを脱退した後、恋人の態度は変わった。
     メールの頻度が下がり、電話の声がどこか遠くなり、決定的な別れを切り出された。
     ――将来を考えると、連絡取らない方がいいと思うんだよね。お互いのためにさ。
     わかった、と承諾した。男の自由を認める、理解ある女を演じてしまった。追いすがったところで、相手の心変わりを元に戻すことはできなかっただろう。
     もう会わない。それは二人が交わした、初めてで唯一の約束になった。
     何も残らなかった。
     すべて流れて、冷めていった。
     由紀は両手でお湯をすくい上げ、反芻する。
     彼と一緒に過ごせた細切れな時間は全部足してもきっと一週間にも満たなくて、本音を言えば最後にキスくらいしたかった。
     だけどね。
     あなただけのわたしでいられたこと。
     わたしだけのあなたでいてくれたこと。
     嘘じゃなくて、遊びじゃなくて。
     血の通った魂を抱き締め合った瞬間が確かにあった。
     別の世界に分かたれてしまった後も、この記憶は消えない。
     自分を切り捨てることはできないから、鈴木由紀のまま生きる。生き延びる。
     恋人と別れて三ヶ月が経った。今日という一日はまだ数時間残っている。

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