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シリーズ:痛み(仮)1
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痛み(第6話)

作者:いまひろ

  • 無料作品 有料作品:¥0(税込) R18
  • 編集協力者:

    劇場の脚本に関わるようになり、解放の場を得たジョシュア。
    しかし彼の中に根強く残る憤りの念が、女優のアリエッタに向けられる。


    登録ユーザー星:0 だれでも星:0 閲覧数:29

    痛み(第6話) 1964文字

     

    -アリエッタ-

    アリエッタは、衣装担当として劇場に出入りしている仕立て屋の娘で、幼い頃から舞台に憧れて育ったようだった。

    15になると自らも見習いとして入団し、17で舞台デビューを果たした。
    通行人ABからはじめ、次に名前のある役をもらえるようになり、最近ではようやく主人公の侍女役や友人役をもらう事もできるようになった。
    だが未だ主役には縁がなく、伸び悩んでいるという噂を耳にすることもあった。

    しかし、本人はそれでも日進月歩、少しずつ努力が報われる事に喜びを感じ、いつかは人々を感動させる役を演ずる事を夢見て、日々努力を続けていたのだ。

    アリエッタは明るく、努力家で、裏方の仕事も嫌な顔をせずにやり、ほかの役者のフォローに回ることも多かった。
    苦労もあるが、この劇場で芝居ができることが何よりも嬉しく、劇場を愛していたのだ。

    座長を務めるレオンにとっても、心強い存在だった。
    レオンが皆の士気を高め、アリエッタが優しくフォローに回る。
    いつからか自然にこのような構図が生まれ、それがうまく機能していた。

    アリエッタは華奢な体付きをしていて、優しい顔立ちは美しかった。
    しかし、女優としては影が薄く、観衆を引きつける魅力や強さがあるとは言えない存在であった。
    優しすぎることろがあり、たまにひどく落ち込んでしまうこともある。

    だが努力を続ける彼女は皆に愛され、守られていた。



    私はある日、稽古が終わって皆が帰り支度を始めた頃、アリエッタにこっそり話しかけた。

    楽屋でメガネを差し出してくれて以来、2人きりになることはなく、会話もしていなかった。

    だが、いつも目の端でお互いを追い、目が合いそうになるとアリエッタは慌てて視線をそらしていることを私は知っていた。

    彼女がいつものようにかたずけ仕事をするため舞台裏へ一人やって来ると、私は彼女の後ろ姿に向かって静かに声をかけた。

    「アリエッタ」

    彼女は驚いて振り向き、避け続けてきた相手がすぐ近くにいて、自分を見つめていることに動揺した。
    逃げられる自然な理由はない。

    「少し話してもいいかな…」

    「…え、ええ。」

    私は動揺する彼女の目をわざと優しく見つめた。
    二人の間には何もない。
    約束もない。
    特別な会話もない。
    ただの出資者と出演者、
    それだけだ。

    だが、視線だけが社会を形作る外的な要素を自由に飛び越えることが可能だった。
    視線は言葉でもなく、形もない。触れることもできない。
    物質的な社会に生きる存在にとって、それはあやふやな物だ。
    私がいくら何を視線に込めようと、咎められる筋合いはない。

    私はただ、演劇について話した。
    内容などなんでもいい。
    彼女が頷きやすく、賛同しやすい話題を振った。
    もちろんどういう返事が返ってくるのか想定しながら、その振り幅まで計算に入れて会話を誘導する。

    誘導する先は「彼女がいかに素晴らしい女優であるか。」
    である。

    なぜなら、それが彼女の一番望む流れであるからだ。

    彼女はやがて目を潤ませ、我慢しきれず泣き始めた。
    華奢な肩を小さく震わせ、心の底から溢れ出る涙を静かに流した。

    私の会話で涙を流した人間は初めてだった。
    もちろん彼女の気持ちを理解しているからこそ、彼女の望む流れを悟り、それを提供することができる。
    しかし、それは彼女が望んだからであり、私の心ではない。

    震えながら泣く彼女を見て、そのギャップをまざまざと感じてしまった。
    このギャップに違和感を覚えたとき、私は立ち止まり、このギャップの正体について考えるべきだった。

    だが私は、その答えにたどり着くのに必要な情報を持っていなかった。

    欠如。

    そこに何かあるような気がしながら、目を凝らしてみても、まるでブラックボッックスのように見ることができない。

    分かっていることは一つだけ。
    私は、彼女が望むことを全て理解し、叶えてやることができる。

    …そのことに何の問題があるのだろうか?

    私はいつだって、相手の望む通り振る舞い、求められるものを提供して来た。
    だからこそ私は存在を許され、生きることができている。
    それが世界のあらましではないのか?


    …そうでなければ、私はとっくに…!!


    このとき、何の前触れもなく、激しい憤りの感情が私を襲った。
    抑えきれない、やり場のない感情だ。
    理由さえはっきりしない、得体の知れない怒り。

    この感情が立ち止まることを許さず、私の体を突き動かした。


    私は眼鏡を取ると、強くアリエッタの体を引き寄せ、力で彼女を抱きとめた。
    彼女の美しい顔を間近に捉えながら、私はさらに彼女の瞳を見つめた。

    視線に何を込めようが、私の自由だ!
    やがて彼女は視線から逃れようとすることをやめ、私の瞳に引き込まれていった。

    全て分かるはず。

    閉じ込められ、亡き者として葬られてきた者の存在を!

    私は強引な力で、彼女にキスをした。
    激しく奪いたかった。

    彼女は次第に抵抗をやめ、私を受け入れた。


    7へ続く

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