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シリーズ:嗤う隣人
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嗤う隣人

作者:ひせみ綾

  • 無料作品 有料作品:¥0(税込) R18
  • 編集協力者:

    世の中は、不公平だ。


    登録ユーザー星:11 だれでも星:1 閲覧数:107

    嗤う隣人 6537文字

     

     隣の605号室に住んでいる奴を、一度だけ見かけたことがある。
     背がやけに低くて、俺の胸くらいまでしかない。最初、子供かと思った。でも、実際はサラリーマンで、超大手の証券会社に勤めるエリート野郎だ。なんでそんなことを知っているのかと言うと、この賃貸マンションに入居するとき、部屋の約半分は、その証券会社が社員寮として借り上げている、と、不動産屋のにいちゃんが口を滑らせたからだ。
     証券会社だなんて、他人のカネを動かして利鞘を稼いでんだろ、ハイエナみてえな奴らじゃねえか。俺みたいな低所得のアルバイトにゃ、逆立ちしたってお声掛かりはないし、縁もない。
     あんなチビスケのブサイクでも、一流企業に勤めてる高給取りなら、女も選り取り見取りなんだろうな。以前になんかのバラエティ番組でやってたぜ、証券会社の営業マンって、年収は軽く一千万を超えるんだってな。ただでさえカネがあるってのに家賃も会社持ちだとは。美味いもん喰いたい放題、高級車だってなんだって買えるじゃねえか。こっちは、カネがないから女だって寄り付かない。
     かく言う俺は、鳶職だった。
     中学は一応卒業し、進学もしたけど、高校はろくに行かなくて素行不良と成績不振で強制退学させられて、ぶらぶらしているところを先輩に捕まって説教され、親方を紹介された。
     それからは必死に働いた。働くのは好きだった。足場を組んで、高いところに登る。世界を見下ろしている気持ちになれた。仲間も大勢いた。俺は体が丈夫でデカくて強かった。学歴なんかなくたって、やっていける。そう思っていた。でも、その体を壊した。
     不摂生と、アルコールの採り過ぎによる肝機能障害。気づいたときには症状が進行していた。全身のむくみと倦怠感。一瞬の不注意が命取りになる、体を使うハードな仕事など続けられる筈がなかった。鳶の仕事は辞めた。
     半年、失業保険でかつかつの生活をした。いまは、夜間のビル警備員の仕事をしている。深夜は仮眠休憩が取れるが、拘束時間は実に16時間以上だ。それで日給は一万円ちょっと。無論、シフト制だ。毎日なんて働けるわけがない。それでは、体が持たない。
     隣の部屋のリーマンは、9時5時の仕事で、俺が手にする年収の5倍以上を稼ぐわけだ。そう考えると、腸(ハワラワタ)が煮えくり返りそうになる。この世は不公平なことだらけだ。
     夕方の16時、俺は出勤の支度をする。今日は、これから朝の9時まで仕事だ。
     部屋のドアノブに、見慣れた花柄のビニールバッグが掛けてあった。中身は、車で30分程の実家に住んでいるお袋の手料理が詰められたタッパーだ。俺が体を壊して以来、週に三日、お袋は料理を届けてくれている。高校を中退した俺は実家の親父と兄貴から絶縁を言い渡されて、敷居を跨ぐことも許されていないから、近くに住んでいてもお袋の顔を見に行くことも出来ない。お袋は親父と兄貴に気兼ねして、こっそり俺に手料理を運んでくれているのだ。いつもドアノブに引っかけて、チャイムすら鳴らさずに。
     取り敢えず、部屋に引き返し、ビニールバッグをそのまま空っぽの冷蔵庫に収めた。いつものように、仕事を終えて帰宅してから有り難く食べることにする。とはいえ、朝起きて夜眠るという通常のサイクルとは違う生活のせいか、病気のせいか、或いはストレスか、俺の味覚はおかしくなっていて、何を食べても味が分からない。
     ストレスは、隣のリーマンのせいもある。
     俺の仕事のシフトは週ごとに変わるが、14時間勤務だったり17時間勤務だったりする。二日働いて一日休んでいるようなものなので、幾ら勤務中に仮眠が取れると言っても、自宅の枕でゆっくり眠れるのとは違う。疲れ切って帰って来たら、とにかく眠りたいと思うのは当然だろう。
     それなのに、隣の奴は、遠慮も何もなしに洗濯機を回したり、掃除機をかけたりする。この前の土曜日なんぞは、昼間、俺が眠っているときに、何度もベランダのサッシを乱暴に開け閉めしやがった。布団を壁際にくっつけているわけではないが、ベランダのサッシの開閉は、音だけではなく衝撃が壁や床からダイレクトに伝わる。重低音の音楽を大音量でかけるなんてのに比べれば、まだマシなのかも知れないが、そのときは、俺もさすがにキレた。
     我慢できずに布団から這い出し、ベランダ越しに怒鳴ってやった。そうしたら、謝るどころか、言い返してきやがった。
    「うるせえッ。もうちょっと静かに閉めろ」
    「はあ?真っ昼間に何言ってんだ、アンタ。こんな時間に寝ぼけてんのか?」
     ますます頭に血が上った俺は部屋を出て、隣のドアチャイムを連打し、ドアを何度も殴りつけた。奴め、玄関口に出て来はしなかったが、間髪入れずにインターホン越しに応答があった。
    「アンタのほうがうるさいだろ、頭がおかしいのか。いい加減にしないと警察呼ぶぞ」
     インターホンが叩きつけられるようにがちゃりと切られてからも、しばらく俺は喚き散らした。エリートだかなんだか知らないが、ひとを虫けらみたいに見下しやがって。
     くそっ。くそッ。
     ぶっ殺してやりたい。
     でも、殺すなんて駄目だ。くそクズ一匹殺したくらいで世の中は生き易くなんかならないし、どんなクズでも殺してしまえば代償は大きい。親父や兄貴なんかどうでもいいが、黙って差し入れを続けてくれるお袋のことだけは泣かせたくない。
     俺は、隣の奴を観察し始めた。
     奴は毎朝7時には家を出る。シフトの都合もあるが、その時間に自分が家にいるときは、隣がドアを開ける音、鍵を閉める音に注意深く耳を澄ませた。そして分かったこと。月曜日と雨の降っている日、奴は、エレベーターを使わない。何故か階段を使うのだ。急ぎ足で非常階段を降りて行く足音がする。
     何故、月曜と雨の日だけなのか、理由は分からない。何かのゲン担ぎなのかもしれない。
     俺はちょっとした悪戯を思いついた。なにか、階段に、障害物を置いてやろう。部屋を見回すと、自転車のスタンドがあった。自転車本体はしばらく前に処分してしまったが、特に意味もなく、スタンドだけ玄関に残してあったのだ。 
     奴がこれに引っかかって階段で転び、或いは階下まで転げ落ちて痛い思いの一つもしようものなら、俺の溜飲も多少は下げられる。人間てのは案外と頑丈に出来ているから、よっぽど運動音痴のダサ坊か足腰よぼよぼの爺さんでもない限り、階段を転げ落ちたところで首の骨を折って死ぬなんてことになりゃしないだろう。奴が、挫いた脚を抱えて踊り場で呻いているところを想像する。非常階段は、平日の、それも昼間なんぞまず誰も通らないから、奴はべそをかきながら、自分で助けを呼ぶしかない。エリート気取りが、大恥でもかきやがれ。
     奴の醜態を想像するだけで、俺の口許は自然に笑みを刷いた。久し振りに気分がいい。
     俺は、冷蔵庫から花柄のバッグを出して、タッパーの蓋を外して電子レンジに入れた。まだ少し時間があるから、少し食ってから出勤することにしよう。
     中身はどうやら肉じゃがで、俺の大好物だ。味が分からなくなった今でも、やっぱり懐かしいものは懐かしい。この頃はどういうわけか、頓に体調が思わしくなく疲れやすい。特に、喉や胃の具合が悪いのだ。だから余計に、お袋の気遣いが身に沁みる。
     加熱が終わるのを待ちながら、テレビをつける。
     天気予報を確認すると、来週の月曜日は雨だ。丁度いい。月曜の明け方、非常階段の折り返しすぐのところ、死角になる場所に、スタンドを仕掛けに行こう。


     606号室に住んでいるのは、常識を知らない男だ。
     その男が隣の部屋に入居してきた際に、一度だけ見かけた。僕は丁寧に会釈したのに、相手は顎を上げて馬鹿にしたように見返してきただけだった。無論、引越しの挨拶なんてものもない。
     長身で筋肉質、派手な身なりの、見た目からして遊び人という風情。まともじゃないのは外見だけじゃない。まともな勤め人じゃないのはすぐに知れた。おかしな時間に出掛け、おかしな時間に帰宅する。それも毎日一定ではない。別に注意して聞き耳なんか立てたりしなくたって、隣人なのだから数ヶ月もすれば分かることだ。日雇いとかそういった類だろう。横文字で言うなら、フリーターか。

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    コメント

    • やーらーれーたーァァァ・・・OTL
      同じテーマで何か書こうと思っていたんですよーw
      とは言っても、まだ形にすらなってなかったんですがw
      ここまで理想的に書かれちゃうともう、文句のつけようがありませんなw
       ↑文句つける気か!
      すばらしかったです☆☆☆
      • 2 fav
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    • こんばんは。閲覧+コメント有難うございます。
      いや、理想的って(;´Д`)ヤなヤツしか出て来ないヤな話だとしか思えないのですが。。。
      テーマが被っても書き手によって調理の仕方は違いますから、是非読ませて頂きたいです。完成されたらうぴにUPしてくださいませ(´。✪ω✪。`)!
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    • 確かに、登場人物はイヤなやつかもしれませんが、ストーリーとしてはめっちゃわかりやすくて良かったですよーw
      あっ、先が読めるとか単純って意味ではなく、意図するテーマがわかりやすいってことですよw

      私のほうは・・・形にすらなってなかったのでいつになるやら・・・です( ̄▽ ̄;
      • 1 fav

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    • 良いですねぇ♪ 歯車がかみ合う感じが短篇ならではの心地よさがありました☆ 
      悪意が一方通行だけではないから、暗いだけじゃない仕上がりに感じられ、ワクワクしてしまっているワタクシ自身の悪意を知りました(゜o゜;)アブナイアブナイ
      面白かったどS♪
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    • 鹿さん、こんばんはー( *´艸`)閲覧+コメント有難うございもふッ(≧四≦)!!
      うっそおん。これって、『良い』ですか~~?『ワクワク』しますか~~~??Σ(゚Д゚)
      。。。ぬしもどSよのう。

      オイラは明るく正しく品行方正な梨なので、次こそは良いひとたちばかりが登場する道徳的価値のあるお話を書きたいですッ('◇')ゞシュタ 
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    • はじめまして。
      大変楽しく読まさせていただきました。
      互いに闇討ちしあう歪んだ日常。
      他人事ではないですね、どちらの立場も。
      どうか自分はあんな気持ちになっていませんように……
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    • こんばんは、初めまして。梨と申します。閲覧+コメント有難うございます。゚+.( °∀°)゚+.゚
      ホラーって、どうしても人間の妄執とか汚い部分を書くことが多くなるのですが、やっぱりイヤですね、こういう荒んだひとたち(笑) 

      実は、ズバさんのページにポチ逃げ(☆だけつけてコメント入れないこと)をしておりましたので、後ほどご挨拶に伺わせて頂きますね(*´▽`*)!
      • 1 fav

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    • 非常に面白かったです。
      ふたりの人間の暗い部分をかみ合わせ、より暗さと醜さを際立たせる非常に醜い物語が好みでした。
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    • おはようございます。閲覧+コメント有難うございます(*´▽`*)
      この物語の登場人物、ふたりとも大ッ嫌いです♬こんな醜い話は、二度と書きたくありません( ̄▼ ̄)エヘ
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    作者紹介

    • ひせみ綾
    • 作品投稿数:71  累計獲得星数:1031
    • ▲自己紹介▲
      梨と申します。小説っぽい駄文やイラストっぽい落書きを投下したりします。両親は普通の梨の木、芋虫とのハイブリッドの弟はいません。


      ◆成分の8割強が、熱血バトル少年漫画で構成されています。あとの1割弱が、梨です。

      ◆フォローの際は、どこのページからでも構いませんので、コメント欄で一声かけて頂けると嬉しいです。まったく知らないヒトからの無言フォローは、ほんのりイヤ(^_^;)

      また、一定期間(半年以上)交流のないフォローさんはリムする場合があります。悪しからずご了承ください。


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