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シリーズ:口寄せ
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口寄せ

作者:たまこ

  • 無料作品 有料作品:¥0(税込) R18
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    強い霊力を持つ瀬山正司は、絶望と後悔の70年を生きてきたが…(改訂版)


    登録ユーザー星:10 だれでも星:5 閲覧数:192

    口寄せ 9501文字

     

     後悔と絶望を核に諦めと惰性で生きた人生だった。 
     あの時もっと、別の選択をしていれば今は違ったのだろうか。
     その答えが解らぬまま、何度も自問自答を繰り返してきた… 
     答えなど出ないのに。
     佐知子、最後に君に会いたい。
     もう老人と呼ばれる年の男がこんな気持ちおかしいかい?
     笑われてもかまわない、君に会いたいんだ。
     でも私には君を呼び出す勇気が無い。
     君はきっと私を恨んでるから。


     私の家は代々祓い屋を生業としていて、跡取りの私には幼い頃から自由は無かった。 
     友達と遊んだ記憶は無い。
     学校が終わればすぐに帰って修行をしなければならなかったから。
     クラスの皆が幾つかのグループに分かれ、楽しそうにお喋りしてるのを興味がないふりでやり過ごしてきた。本当は泣きたいくらい羨ましかったのに。 
     私は学業もスポーツも常に上位だったから、中学三年の春、先生に高校進学はしない事を告げると、すごく驚いて高校はもちろん大学へも進学するよう強く勧められた。
    「お前の学力ならどこだって行けるんだ。ちゃんと家族の人に相談してから決めなさい。わかったね」 
     ねえ、先生。その『家族の人』が進学を許さないのです。『家族の人』が友達を作る事も、将来に夢を持つことも、自由に恋愛し結婚する事も許さない。私は一族の誰よりも霊力が強いからもっと修行して力を高め、将来は家を継ぎ立派な霊媒師にならなくてはいけないのだそうです。
     それは私が生まれた時から決まってる事で、逆らう事は許されないのです…。
     もし、先生にそう言ったら高校に行かせてもらえるよう『家族の人』を説得してくれるだろうか?そしてその説得に『家族の人』は納得してくれるだろうか?
     私は半瞬、叶うことの無い高校生活を頭に浮かべた。だけど、わかってる。そんなのは無理だ。だから私は力ない笑顔を作ってこう言った。
    「もう、決めた事ですから」

     中学を卒業して学校がなくなると、朝から晩まで修行する日々が始まった。
     私の家は大きな旧家で、霊媒師であると父と、父の元で修行するお弟子さん達、そして下働きの人達が皆同じ屋根の下で寝起きしていた。 
     屋敷に劣らぬ広い庭にはたくさんの木や植物があり、庭に出れば四季折々の眺めを楽しむ事が出来た。その中でも人影少ない裏門近くの一角にある、樹齢百年の大きな御神木の下は私の気に入りの場だった。
     お弟子さん達には専用の談話室があり、彼らはそこで休憩をとる。私は談話室に入る事を禁じられてはいなかったが、彼らにとって師の息子である私がいたのでは気を使うだろうし私も息が詰まる。だから余程の悪天候でなければ空いた時間のほとんどを御神木で過ごしていた。

     夏のある日、私はいつものように御神木へ行くと珍しく先客がいた。
     嫌だなと思ったが御神木は誰の物でもないから他人が来てもおかしくないし、この家の息子である事を傘に着て追い払う真似もしたくなかった。
     仕方なく引き返そうとして、でも少し気になり、さりげなくその先客に目をやった。
     先客は下働きの女達が揃いで着る鶯色の着物姿で、御神木を背もたれに座っていた。
     昔からいる年嵩の女達とは違う。私と同年くらいの少女で見た事がないから新しく入った人かもしれない。
     綺麗な黒髪に真っ白な肌と大きな瞳、美しい少女だと思った。
     私は引き寄せられるように少女に近づいた。心では『馬鹿、やめろ。彼女に近づいて何を話すのだ。今まで友達の一人でも出来た事があったか?恥をかくだけだ。引き返せ』と叫んでいるのに足は止まらなかった。
    「あの…」
     蚊の鳴くような声だったが、私にしては『あの』の一言が出ただけでも奇跡だと思った。ただその後が続かない。頭の中は真っ白で、喉は張り付き出るのは掠れた空気だけだった。夏の暑さだけではない嫌な汗が出た。
     何も言えず立っていると、私の声というより人の気配に気付いた少女が顔を上げた。
     視線がぶつかる。少女は私を見ると一瞬のうちに怯えた表情になった。私は何故そんな目で見られるのか、訳も解らぬままなんとなく半歩後ろにさがった。少女は私から視線を外さず立ち上がると涙を浮かべ震える声で言った。
    「も、申し訳ございません、いらっしゃる事に気が付きませんでした…私、今日からここでお世話になる中井佐知子と言います…先程、旦那様に私の仕事の事…聞きました。私にできる精一杯の事をしなさい…と。でも、ごめんなさい。まだ…気持ちの整理がつかなくて…だけど、私…頑張ります、だから、だから…」
     そこまで言うと堪えきれなくなったのか、両手で顔を覆い少女は泣き出した。
     私は途方に暮れた。父が少女に何を言ったのか?下働きの女達の仕事と言えば掃除や洗濯、それに大所帯の食事の用意で大変だろうが、泣いて怯えるような仕事ではないはずだ。やはり…日常的に降霊をしているような家に仕えるのは恐いのか…。
     私はとにかく少女に泣き止んでほしくて何か話さなければと思った。こういう時、中学の頃クラスで楽しげにお喋りをしていた彼らなら、なんと言って慰めるのだろう。
    「僕は…あの、瀬山正司といいます。十六歳です…」 私は心の中で舌打ちをした。我ながらひどい。私の名前や年を聞いて何の慰めになるというのだ。何か続けなくては。気の利いた事を言わなくては。なのに焦れば焦るほど言葉は出ない。
     ああ、私はこの少女に何を言ったらいいのだろう、何を言ったら泣き止んでくれるのだろう。何をしてあげたら少女は笑ってくれるのだろう?

     私はおかしくなったのかもしれない。
     三日前のあの日、御神木の下で何も言えず黙り込む私に、ごめんなさいと言い残し走り去った佐知子の泣き顔が、寝ても覚めても離れないのだ。
     気付けば佐知子の姿を探してる。こんな事は初めてだった。次にもし会えたら佐知子は笑ってるだろうか?それともまた泣いているだろうか?
     私はいつ佐知子に会ってもいいように何冊かの本を持ち歩くようにした。どうせ佐知子を目の前にすればうまく話せないだろう。でも本があれば、良かったら読んでみてと渡す事ができるし返してもらう時にまた会える。

     初めて佐知子に会った日から二週間が過ぎた夜、結局あれから一度も会う事ができない佐知子を思いながら、自室の窓から橙色に輝く大きな月をぼんやり眺めていた。
     いくら広い屋敷でも、同じ屋根の下にいるはずなのに、こうも会えないと果たして彼女は実在するのだろうかと思う事もあった。だが私はその考えを苦笑と共に否定した。昔からそうだった。私に対して必死にすがりつき助けを求めてくるのは決まって死者だけだった。生者は私なんかに進んで語りかけてはくれないのだ。そう考えれば姿を見せない佐知子はきっと生者なのだろう。
     
     しんと静まった夜に、ゆるやかな風が少し気の早い鈴虫の音をかすかに運んでくる。私はその美しい音色に目を閉じて聞き入った。 

    リリリリ…リリリリ… …や…て…ゆる…し…て 

     虫の音にまぎれかすかに人の声が聞こえてくる…。
     私は窓から身を乗り出し、月明かりだけでは見渡せない広い庭を見る…が、死者のいる気配は無い。そうなるとさっきの声は生者の声だ。それも若い女。 
     この屋敷に住む生きた女で若いのは佐知子ただ一人。佐知子に何かあったのだと…私は結論付けた。

     霊能力者は降霊術だけをしているのではない。人探しや失せ物探しの依頼も多い。
     人はもちろん物にも魂は宿る。生者、死者、動物、植物、物、それらすべてに魂があり念がある。
     霊能力者は常人には見えないそれらを見て、感じ、声を聞き、生者と死者の間を取り持つ。更に上級の霊能力者になると実体の無い霊魂に触る事ができる。
     霊魂に触れるという事は、悪霊と化した除霊の効かない霊を力づくで封印する事だって可能になる。この屋敷で唯一そこまでの力があるのは私だけだ。こんな力があるが故に、幼いころから自由が無かった。家が祓い屋だと言えば最初は面白がっていた同年の子供達も、すぐに気味が悪いと離れていった。こんなに傷つくなら最初から友達を作ろうとは思わなくなった。高校進学も諦めた。力なんて無くなればいいと何度も思った。

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    コメント

    作者紹介

    • たまこ
    • 作品投稿数:16  累計獲得星数:107
    • 読んでいただいてありがとうございます。
      ☆やコメント励みになります。ありがたいです。
      誤字脱字や加筆で修正する事が多いです。すみません…。

      猫の下僕です。


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