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作者:たまこ

  • 無料作品 有料作品:¥0(税込) R18
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    ご先祖様を大切にしないと…


    登録ユーザー星:11 だれでも星:9 閲覧数:283

    3486文字

     

    「お墓にはね、ご先祖様が眠ってるんだよ。ご先祖様がいなかったら今の私達はいないの。だから大事にしなくちゃいけないよ。お盆にこうして、墓石をきれいにして、お花をあげて、お線香をあげて手を合わせるとご先祖様も喜んでくれるんだ。その反対にお墓参りに行かなかったり、お墓をきれいにしてあげなかったりしたら、ご先祖様は怒ってしまうからね」
     幼かった俺は、祖母の話に恐怖心を覚えた。もちろん大事にはするけど、大人になって、もし忙しくお盆に墓参りに行く事ができなかったら先祖は怒るのだろうか?もし体調が悪くて行けなかったら?もし事故にあって行けなかったら?事情があっても怒るのだろうか?怒らせてしまったらどうなるのだろうか?
     俺は泣きそうになった。祖母のシワシワの手をぎゅっと握って自分の不安を訴えた。祖母はそんな俺の顔を見て、やはりシワシワの顔を俺の目線に合うようしゃがみこみ、
    「そのくらいご先祖様もわかってくれる。かわりに墓参りに来れた時には今日みたくきれいにしてあげるんだよ。この先婆ちゃんが死んだら、婆ちゃんもこの墓に入るんだ。婆ちゃん墓の中からきれいにしてくれてありがとうって思ってるから。そのお礼に裕ちゃんが好きなドングリをあげようかね。このまわりには大きなドングリがいっぱいあるから」
     婆ちゃん死んだらやだよ。ドングリなんていらない。ずっと生きていて。

     あれから20年。俺は25歳になり祖母は死んだ。
     肝硬変だった。肝硬変から肝臓癌になり死んだ。

     自宅から祖母の住む田舎まで片道3時間。会社務めの俺にはそう何度も見舞いに来れる距離ではなくたまに会いに行っても、もう祖母は俺が誰だかわからなかった。病気のせいで、うまく排出出来ない尿のアンモニア成分が脳に回り痴呆のような症状が出ていたからだ。最後に祖母を訪ねた日、病室に入った俺を見ていくつものチューブに繋がれ動けない祖母は弱々しい奇声を上げながら眼だけで俺を追った。俺はギョッとして視線をそらした。そらした目に飛び込んできたのは腹水のせいで異様なまでに膨らんだ祖母の腹。改めて祖母の全体を見ると、げっそりと削げ落ちた頬の肉、抉られたように陥没している左右のこめかみ、黄色く濁った肌の色。もう長くない。残り僅かな生命を窪んだ眼にだけ集中させたような粘ついた視線。俺は耐えられず、そのまま声もかけず東京へ戻った。祖母が死んだのはその日の夜だった。

     祖母は昔幼い俺を連れて行った、あの先祖達が眠る墓に入った。祖母の家の裏に広がる林の中にその墓はある。人で踏み作られた墓までの小道以外は木や草が覆い茂り、電灯も引いてないから夜には真の闇となる。私有地に入ってくる人間などいない。もっともこんな夜中じゃ親戚連中だってこないだろう。誰にも見られず墓にくる必要があった。懐中電灯の明かりを頼りに俺は墓の前までやってきた。

     生暖かい風が漆黒の空から雲を流し、鎌のような三日月が青白い光を墓石に落とす。そこに浮かんだ墓石は石全体の角が丸くなり、表面に彫られた文字も読み取るのが難しい。古い時代から死んだ先祖達を受け入れてきた事を無言で語っていた。

     俺は背中に背負っていたカバンをおろし、もう一度あたりに人がいないかを確認し、墓石に近づいた。懐中電灯で照らすと昼間のうちに誰か活けた花があった。
    「花、叔母さんが持ってきたのかな」
    俺はしばらくその花を眺め、大きく息を吸った。そして花を鷲掴みにすると、そのまま地面に叩き付け花を踏みつけた。何度も何度も地面に擦りつけるように。
    「アンタに花なんかもったいねぇよ。俺が撤去してやる!あ、そうそう…」
     俺はカバンから缶ビールを出し、墓石にカンパーイと缶をぶつけ一気に飲み干した。
    「あー!うまい!羨ましいか?アンタ肝臓悪くして飲めなくなったもんなぁ。まぁ、元々そんなに飲まなかったけど、夜寝る前に小さい缶ビール飲むのが楽しみとか言ってたけど、それも出来なくなったな!」
     飲み終えた缶をその辺に投げ捨て、胸のポケットから取り出した煙草に火を付けた。
    「アンタの可愛い可愛い孫が墓参りに来てやったんだ。嬉しいだろ?線香なんて持ってないからね、この煙草で充分だ。ありがたいと思え!」
     口の端に煙草をぶら下げながら俺は墓石に向かって早口で喋り続ける。
    「アンタの葬式の時は親戚連中の目があるから、悲しんでるフリしてたけど、本当はせいせいした!チューブだらけで眼だけギラギラさせて怖かったよ!大体さ、こんな田舎まで見舞いにくるの大変だったんだよ。わかるか?金はかかるし会社は休めないから土日使って来てさ、俺の貴重な休みが無駄に浪費されるんだ。責任とれ!」
     短くなった煙草を素早くつかみ地面に押し付ける。
    「それに、やれ入院代だ、薬代だって金食い虫だ。俺からもアンタに仕送りしないといけない空気になって、毎月少ない給料から毟り取られて辛かった!」
     なんだろう?やけに息苦しいな。俺は少し違和感を感じ始めていた。両手で両膝を掴み体をくの字に曲げ、肩で息をしながら呼吸を整える。体が重い。俺は必死に垂れた頭を持ち上げて、あの時の祖母のようなギラギラした眼を墓石に向けた。
    「そういや、小さい頃言われたっけなぁ。先祖を大事にって。大事にしないと怒らせてしまうって。アンタは軽い気持ちで言ったのかもしれないけど、あの頃の俺には恐怖でしかなかった。でも、今となっちゃ違うけどな。おい、アンタ聞いてんのか?!」
     息苦しさが増していく。このままだと気を失ってしまいそうだ。俺は重い体をなんとか前進させ腕を伸ばす。一歩。また一歩と近づいて墓石を掴んだ。
    「これでもくらえぇ!」
     俺は最後の力を振り絞って墓石に頭突きをし、そのまま倒れこんだ。

     どのくらい気を失ってたのか、それでもまだあたりが暗い所を見ると夜は明けてないようだ。息苦しさも体の重さも消え去っていた。額に手をやってみると出血もなければタンコブすらない。思いっきり頭突きをしたはずなのに。体を起こし月明かりを頼りに周りを見ると散らかしたはずの缶も煙草もない。踏みつけたはずの花も元通りになっていた。さっき地面に叩きつけたはずなのにと、不思議に思って花に手を伸ばす。手が届く前に視界が急に暗くなった。風が吹き、黒煙のような夜雲が月を隠したのだ。手さぐりで懐中電灯を探す。見つからない暗闇の中にぼんやりと薄明るく発光する何かが見えた。目を凝らしよく見てみると、それはゆっくりと人の形になっていった。祖母の姿だった。

    「婆ちゃん…?婆ちゃん?婆ちゃん!」
     祖母は少し困ったような、でも嬉しそうな顔でゆっくりと頷く。
     俺はいい歳をして涙でぐちゃぐちゃになった。
    「俺、最後の日さ、婆ちゃんが、元気だった婆ちゃんの弱った姿見て怖くなったんだ。だから、俺逃げちゃったんだよ。そしたら、その夜婆ちゃん死んじゃってさ」
     俺は泣きながら叫ぶように言った。祖母は黙って頷いている。
    「俺があのまま病院いたら、婆ちゃんの最後に会えたのにさ、俺それが悔しくて情けなくて申し訳なくて」
     祖母はゆっくりと顔を左右に振った。
    「金の事だって、俺、給料安いからさ、本当はもっとたくさん仕送りしたかった。病院代だけじゃなく婆ちゃんの好きなもの買ってほしかったのに、葬式の時親父から渡されたんだ。今までの金みんな俺名義の通帳に貯めてあってさ、婆ちゃんごめんな」
     祖母はただにこにこと俺を見て何度も頷く。
    「それと婆ちゃん、さっき婆ちゃんの事悪く言ってたのはみんな嘘だ。俺、葬式の時もその後も婆ちゃんに夢の中でもいいから会いたいって思ってて、でもやっぱり会えなくて、それで思い出したんだ。ご先祖様を大事にしないと怒らせてしまうって昔の婆ちゃんの話を。だから墓でひどい事いっぱい言ったんだ。もしかしたら怒って出てきてくれるかもしれないって。ごめんな。でも、会えて嬉しい、嬉しいんだ」
     祖母は優しい顔で俺の頭にシワシワの手を乗せた。触られてる感覚はなかったが妙に暖かかった。そして聞こえた。
    「裕ちゃん、ありがとう」

    「裕ちゃん、裕ちゃん起きて。何やってるの、こんなところで」
     明るい日差しの中、俺の顔を覗き込んでる叔母の顔が見えた。

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    コメント

    • 面白かったです!
      お墓参りは自分でも気にしていることなんで、先を読みたくなりました。
      小学生の時には夏休みの宿題もやってくれていたシャキシャキで甘い祖母が、病院で弱弱しく、なのにぎらついているような様子に怖くなった気持ちも同じで思い出してぐっと喉が詰まりました。
      主人公が墓荒らしを始めて、もうこの話どうなるのかとハラハラし、どんでん返しで余計にほっとして、なんだか救われた気持ちにもなりました。
      読みやすく心理状態も入りやすくて、面白かったです。
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    • 名路さん、はじめまして。コメントありがとうございます!この話は私自身が亡くなった父に会いたいなぁと思っていて、でもそんな都合よく出てきてはくれなくて、それで考えに考えた末、作中に出てくるような行動をとったのが元ネタになってます。(とは言っても、あんなにハードにはしてません…日中に行って小声で延々悪口言ったくらいです)ちなみに父は出てきてはくれませんでした。
      面白かったと言ってもらって、浮かれています…*´∀`) ありがとうございました!
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    作者紹介

    • たまこ
    • 作品投稿数:14  累計獲得星数:102
    • 読んでいただいてありがとうございます。
      ☆やコメント励みになります。ありがたいです。
      誤字脱字や加筆で修正する事が多いです。すみません…。

      猫の下僕です。


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