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シリーズ:― ひとから ―
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― ひとから ―

作者:風呂助

  • 無料作品 有料作品:¥0(税込) R18
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    ありがとう、またね。


    登録ユーザー星:3 だれでも星:0 閲覧数:627

    ― ひとから ― 4864文字

     

    『終電に間に合わないかもしれないよ。そっちの地下道は、
    この時間だとシャッターが閉じているから、外の信号だ。』

    「間に合うかなぁ。はぁはぁ。」

    『もちろん、間に合わせてみせるよ。ボクを信じないとね。
    走るのが遅いのはボクのせいじゃない。君が頑張るんだ。』

    「あと、少し、階段が、長い、段差、高い、はぁはぁ。」

    『うん。これは無理そうだ。この走り方だと、あと三段で、
    転んでしまう。カバンが落ちてくるのを気にしすぎだから。
    膝も擦りむいてしまうから、諦めて止まろうよ。ホラね。』

     <ピリルリピリラリーピリルリピリラリー>

    「そ、そんなぁ。え。すぅ。はぁー。」

     呼吸を整え背筋を伸ばし、体を自然に戻す。

     終電が出る音が聴こえてる。また間に合わない。今夜も。
    残業があったわけでもない、同僚と呑みにも行ってない。
    夕食は帰宅して、ちゃんと作るつもりだったから。

     そんなつもりじゃなかったから。

     ただ見送ってた。そんなに永い間だったのかな。
    あの仔がノンビリしていたかったのかも、街灯の上にいて。
    毛づくろいをしたら、毛が銀色に輝いてウットリするほど。

     そうじゃないかもしれないけれど。

     横道や向かいのビルの屋上。沢山の自分の匂い。春の毛。
    自分の縄張りは引継ぎできたか、心配だったのかも。なら、
    責任感が強くて、きっと皆も頼りにしていたんだと思う。

      <ピリルリピリラリーピリルリピリラリー>

    『ねぇ。終電は行ってしまったよ。駅も閉じるようだから。
    そろそろ、ぼんやりするのは後にして、遅い夕食だろう?』

    「そう、なんだけど。」

    『何が食べたいのか、決められないんだね。でも、それは
    どうせ中に入ってからも、アレコレ迷うから同じだよね。』

    「またぁ、今夜も中のメニューで?」

    『今夜も見送ったから、行く方がいいとボクは思うな。』

    「私もそう思う。」

    『じゃあ、今夜も行くね。』

     スマホが私を導いてくれる。



     ― ひとから ―



    「あ、あ、朝までフリータイムで、ドングリバー付きで。」

    《ソフトドリンクバーのセット料金で、宜しいですか?》

    「え?あ、はい!そうです、そうです!」

    《では、一名様で、朝5時まで、404号室になります。》

    「はい、あ、ありがとうございます。」

     そそくさと部屋の番号札を受け取り、荷物を置きに行く。
    カラオケボックスで始発を待つのは、何度目なのかな。
    その回数分、私は終電を逃してる事になる。

     何度目か判らなくなってる程度に。

     部屋へ行く途中で、ドリンクバーを見つけたので、
    ついでなので烏龍茶を注いでいると、やっぱりツッコミが。

    『どんぐりバーなら、ザラザラって出てくるかと思った。』

    「やっぱり聴こえてたかなぁ。」

    『ボクも笑いそうになったから。店員さんも気付いたさ。』

    「意地悪。」

    『そんな事より充電は大丈夫だよね?この前みたいに、
    途中で充電が切れたら、ボクは先に寝ちゃうからね。』

    「うん、平気。予備もあるから。あれ。あれ。」

    『だから、いつも言ってるのに。部屋に入る前にカバンを
    持ったまま飲み物を持ったら、ドアを開けられないって。』

    「そうだっけ。」

    『まぁ、いいや。ボクが開けてあげるから、左向いて。』

     カバンをドアノブへ寄せる。カバンから小さな生意気な、
    黒猫が這い出てきて、ノブを少し捻る。私は肩で無造作に
    なるべく周囲を気にしながら、部屋の中へ飛び込む。

     本当はこっちの方が危ないと思う。

     スマホのイヤホンジャックに、ささっていた黒猫の人形。
    喋るし動くし、生意気だし煮干と歌が好きらしい。

     巡りあわせは星座のように、辿って見つかる。


     すぅ。はぁー。

     呼吸を整え背筋を伸ばし、体を自然に戻す。

     去年の忘年会。そう、あの日も終電を逃がしたんだっけ。
    買った憶えは無かったけど、酔ってたから気にしてなくて。

     終電が行っちゃたから、タクシー並ぶのも面倒くさくて。
    駅前ロータリー横にあるベンチに座って。スマホを出して、
    黒猫がブラブラしていたの。酔ってたから気にしてなくて。

     どうしようって思って。はぁー。って息をついて。

     そうしたら、真っ暗な夜の空に沢山の星座が動いた様に、
    世界中の生き物が、犬とか巨大なクジラとか、友達もいて、
    私以外は皆、星座になったように夜の空に流れていって。

     ―― そして。

    『ふうん。君にもアレが見えるんだ。』

    「あ、あれは何?私が酔ってるから?皆は無事なの?」

    『おや。ボクが話しかけても驚かないんだね。君は。』

    「え、え?あれ?イヤホンジャックの黒猫……さん?」

     4センチ位の、黒猫が尻尾をブラブラさせてる。

    『うん。毎回そんなに長い呼び方されるのは嫌だな。あと、
    君ら人間は、自分が知らないというだけのモノノケなんか
    大袈裟に騒ぐのだから、何か名前を贈って欲しいな。』

    「あ、はい。えと、あのその。じゃあ、ジャック……?」

    『安易だなぁ。まぁありがとう。ボクはスマホアクセの
    モノノケ。黒猫のジャックだ。さて終電を逃した君は?』

     私は相当、酔ってるのかなって思ってたから。

    「紅村茶々っていう字を書いて、べにむら、ちゃちゃ。」

    『ボクより、マスコットみたいな名前だね。』

    「はぁー。そうだから、子供の頃からベティってあだ名。
    って、言ってもキーホルダーじゃ知らないか。」

    『キーホルダーじゃないよ。ボクはスマホアクセだよ。
    でもベティちゃんなら知ってるさ。マスコット界じゃあ
    大御所だからね。うん。茶々の唇はまぁ似ているね。』

    「それも、よく言われる。嫌いなんです、この唇が。」

    『何を言うんだ。歌姫の特権じゃないか。』

    「よく知らない。」

    『いいんだ。君は紅茶だっけ?だからベティでいいかな。
    ベティ・ブープとは当然、別さ。でも歌は上手くなる。』

    「紅茶って、あだ名もよく言われたけどね。それから、
    歌なんか私は嫌いです。下手だし。声小さいし。」

    『大きさなんて関係ないよ、さっきの一息は良かった。』

    「あ、そうだ!この夜空の、あ、あれ?何もない……?」

     ―― いつもの真っ暗な夜空。濁って澱んでる。

    『【つかの間の一息】の事かな。それならもう終った。』

    「あ、さっきのアレは何?!星座みたいに、動物や魚や、
    お母さんも夜空に、バーっていっぱい、いっぱい……。
    何か穏やかな感じで、星座ごと流れ星みたいに動いて。」

    『波長が同期したときに、ホッとしたり、ため息したり、
    深呼吸をしたり、あくびをしたり。それが一致した時に
    気まぐれに地球と夜空が、イタズラして見せる幻燈さ。』

     縁があれば、呼吸が揃う一瞬に気が付く事がある。
     縁があれば、あえば、また見れるかもしれない。
     縁は歌にのってやってくる事もあるしね。

     呼吸を整え背筋を伸ばし、体を自然に戻す。

     巡り合わせがないと、二百年待っても見れないよ。
    付喪の二倍程度って目安なんだけど、とにかく見れた。
    そういう意味でいいなら、ベティは幸運だったのさ。

     たった一瞬だけ、誰もが一緒に息を吐き出す夜空。

    「ジャック。私ね、多分、いま酔ってるの。」

    『ベティは酔ってるね。』

    「もう。いいやベティで。だからね。今夜、空へ飛んで
    消えていく、猫を見たんだ。ジャックみたいな黒猫とは
    全然違う、随分疲れて痩せて、でも堂々とした白い仔。」

    『見送ったんだね。』

    「うん。初めてじゃないから。小さな頃から何度も見た。
    猫だけじゃないよ。お爺ちゃんとかにも手を振ったし。
    でも、段々それが見える事が怖くなってたから。」

    『【つかの間の一息】に、その白猫を見つけたんだね。』

    「ジャックも見たの?!」

    『ボクはね。君が【つかの間の一息】に立ち会った時、
    この世界に目覚めたんだ。星中の記憶をまばらに詰めて。
    足りない事は、ベティに教わればいいやってね。』

    「見たんじゃなくて、あの夜空から来たの?」

    『少し違うな。君のタメイキから吐き出されたんだよ。』

    「あの夜空は天国とかそういうのなの?」

    『それは違うよ。君の友達もお母さんもいたんだよね。
    皆、ご健在なんだから。そういうのとは違うんだよ。
    ベティが好きな何かが【モノノケ】になって見えた。
    まぁ死に尊厳を持つ気持ちは、モノノケは好きだけど。』

    「そう……なんだ……。」

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