upppiは縦読みコミック(タテコミ)・イラスト・小説が無料で楽しめるサービスです!

ようこそ!ゲストさん
シリーズ:円周率
閲覧数の合計:751

作品を編集する

  • シリーズタイトル・ジャンルの修正
  • この章を改訂する
  • この章を削除する
  • シリーズに作品を追加する
  • 表紙画像の変更

円周率

作者:風呂助

  • 無料作品 有料作品:¥0(税込) R18
  • 編集協力者:

    割り切れない


    登録ユーザー星:5 だれでも星:0 閲覧数:751

    円周率 4806文字

     

     彼女は一体、誰なのでしょう。

     彼が最近、夢中になって読んでいる本があるんです。
    詳しくは知らないんですが、人気のホラー小説だとか。

     私は怖いのは全くダメなので、読みたくないどころか、
    表紙すらも、触りたくないくらいです。

     そもそも彼はホラー映画やゲームとかは好きだけど、
    ホラーに関係なく、日頃は小説など活字を読みません。

     珍しくハマっているのには、胡散臭い理由があります。

     そのホラー小説は、最近ベストセラーなんだとか。
    タイトルは「島」という作品で、彼が言うには初版が
    回収されて、それが何故なのか判らないそうです。

     編集部や出版社は、落丁があったと発表しましたが、
    実際、作者は行方不明になって、唐突な回収を命じた
    編集長は事故で亡くなったそうで、回収の本意は不明。

     彼も友人から、この話を聞いて興味を抱いたとか。

     こういう前提で、新装されて改めて発売されてから、
    漸くベストセラーになっていったそうなのですが。

     これが別の理由から人気がでたらしく、回収された、
    初版版と同じ落丁版が、極稀に混ざっているのだとか。

     作者が編集長に頼んだ、落丁版の内容を読んだ人は、
    何か怖い目にあうらしいのです。そういう噂で評判です。

     彼は喜んで寝る前に読んでますが、活字離れだし、
    すぐに眠ってしまって、ちっとも先に進まないみたい。

     私は、その都市伝説っぽい話自体がありがち過ぎて、
    話題作りにしか思えないし、バカバカしく思えます。

     とはいえ私は。

     ホラーが嫌い。表紙の小さな孤島みたいな写真にも、
    薄暗い気味の悪さがあって、見たくもないんです。

     でも、寝つきの良い彼と違って、私は彼より後から、
    眠気が始まります。で、怖いから照明は少し薄明かり。

     だから寝入ってしまった彼を見ると枕元の「島」が
    否応無しに目に入ってしまうので、少し嫌なんです。

    「読むのはいいけれど、枕元に置きっ放しにしないで」
    そう頼んでも、臆病とか子供扱いされて笑われます。

     どうせ最後まで読まないで飽きるくせに。

     それまで我慢する事にしたのですが、次第に彼自身、
    色々と本に不満を言い始めました。面白くないみたい。

     回りくどく描写が無闇に長いとか、ホラーな展開が
    全然、出てこないから、これはハズレ版の本だな。と。

     だったら読むのやめればいいのに、それでも懲りず
    折角、ここまで読んだから、全部読む。と意地になり
    今夜もまた、枕元へ投げっぱなして眠っています。

     漸く半分を越えた頃から、彼が夢見が悪くて体調が
    どうにも悪い。疲れが取れないと言い始めました。

     それはそうでしょう。毎晩、ホラー小説読みながら
    寝ちゃうんだから、良い夢なんか見ないでしょう。

     こういうと、違うって言うんです。

     彼が言うには、半分まで読んでも全くホラーでなく、
    まるで冒険小説みたいなんだって、言ってます。

     そこで怖くないように、読んだ所までのアラスジを
    教えてもらいました。それが何というか、こんなです。


     ある女性が旅行中、船が事故にあって救命ボートで
    何人かと大海原へ投げ出され、救援を求めて彷徨う。
    という話なのです。

     やれ魚を捕まえる話、雨水を溜める工夫の話。他に
    陸を発見する方法や、海鳥についての話。体力が落ち
    衰えていく仲間を助ける話。サメから逃げる話など。

     確かにホラーというか、漂流記か冒険小説みたいな。
    唯一、少し怖い感じなのは、蜃気楼で島が見える時が、
    何度か出てきて、そっちへ向うと消えてしまう。

     その場面が何度か唐突に出てくるのだそうです。

     嫌な感じだけど、怖いというのとも違います。でも、
    主人公たちは、蜃気楼じゃないと願い、島が見えると、
    シャツを脱いで振ったり、大声を上げたりします。

     でも、その女性が手を伸ばすと消えるのだそうです。

     半分まで読んで、まだそんな単調な展開に飽きてて、
    読むことが苦痛になってきたのが、疲れの原因なんだ。
    彼はそう言うのですが、それでも読むのはやめません。

     まぁ、いつかは読み終わるのだし。

     そう思って気にならなくなった頃、梅雨入り雨音が、
    ジメジメした感じの夜のことです。

     声がするんです。水、水、水、水って。驚いて彼を
    すぐに起こそうとしたら「水水」寝言をいってるのが、
    彼自身なんです。うなされている感じで、起こしたら、

    「ああ、あと少しで……あれ?」

    「あれ?じゃないよ!随分、うなされてたよ。平気?」

    「うん、おかしいな。変な夢だったみたいだ。」

    「どんな?」

    「なんかオッサンが水を売るって言うんだ。それから
    売ってくれとか、分けてくれっていうと、ポタポタと
    水を零して、遠ざかっていくんだ。俺が手をだすと、
    そのまま消えちまうんだよ。」

     ―― あ。

    「なんかそのまんまな夢。ホラ、雨降ってるし。」

    「そっかぁ。そうだよなぁ。むう。」

    「体調が悪いのは本の影響だけじゃなく、梅雨入りで
    湿気で不快なのかも。エアコンの掃除しておくね。」

    「ああ、うん。ごめん、近いうちに頼むよ。」

    「でも、海がいっぱい広がってて、水が飲めないって
    そういう意味では精神的にも肉体的にもホラーかも。」

    「え?いや、夢では海は無かったよ。あれ、どこだ。」

    「夢なんて、断片的なシーンの無意味な集合だから。」

    「うーん。夢ならなぁ。夢なんだよなぁ。」

    「どういう意味?」

    「いや、何でもない。寝よう。」

     どうも、今のはちょっと変だと思った……。


     その週末、ニュースで行方不明中だった人気作家が、
    ホテルの風呂場で溺死して発見されたと報じていました。

     「島」の作者だとテロップにあったので、すぐ録画し
    報道をよく聴くと、酔って入浴中に心臓麻痺か何かの、
    疑いで捜査中だとか。彼が帰宅してすぐニュース録画を
    見せました。すると彼が、作者の近影が映った時に、

    「あ、夢で水を零したオッサンだ。」

     何となく気が付いていたけど、やっぱり。もしも。
    私の予感が当ってたら、彼が読んでる本は「当り」です。
    それだけは怖いので、正直に彼に言いました。

    「私がねホラー、怖いのは。そういうの視えちゃう。
    多分、そういう性質なんだと思う。お婆ちゃんとかも
    そうだったから、私、小さい頃から何度か視てるし。」

    「そんなの言った事なかったし、なんで?」

    「言ったって信じないし、子供って馬鹿にするでしょ。」

    「あ、うーん。そっか、ごめん。でもなぁ。」

    「違う違う。視えるって幽霊とかの意味ではなくって。」

    「え?じゃあ、何が視えるの?」

    「言い難いんだけど。いい?」

    「う、うん。」

    「もうすぐ死ぬ人。」

    「そういうのって、聞いたことあるな。」

    「私の場合、全然、顔を知らない人でも繋がると視る。」

    「繋がるっていうのは?」

    「貴方が嫌な夢で水を零されるって話してくれた時ね。」

    「うん。」

    「貴方の真後ろにそのオジサン。あのニュースの作者の
    あの人がいたの。笑ってた。水の皮袋を持ってて。」

    「え。オッサンが水零す時、袋からって言ってないぞ。」

    「だから私が知ってたら驚くと思って。疲れてたし。」

    「今でも、まぁ、充分驚いた。普通、ビンとか思うよ。」

    「もう、あの本に関わるのやめよう。」

    「いや、本当に【当りの本】だとしたら絶対読む。」

    「何で?!意味わかんない?作者の人も、編集長も偶然
    事故が重なっただけかもしれない。でも万が一って事も」

    「万が一があるから、読むんだ。面白がってないよ。
    オマエを怖がらせたくないから、ちゃんと読み終える。」

    「読み終わったら、怖い目にあうって……。」

    「怖いかどうかは、主観次第だよ。」

    「でも……。」

    「何?俺の顔が見えるのは、俺が目の前にいるからだ。」

    「そうじゃなくて!その跡……。」

    「ノドが乾いてるからだよ。気にするな。」

     彼の首についてる手の形のアザは、殺意に感じる。
    作者は死んでる。誰が彼を狙ってるんだろう。
    一番、疑わしいのは小説の女性主人公。島に手を伸ばす。

     彼女が怪しいと予感してる。絶対、当る。
    島に手を伸ばすと島は消える。彼女だけがそうなる。

     逆に言えば島を消せるのは彼女だけなんだ。


     その夜。やっぱり読みながら寝てしまった彼の枕元に
    本が投げ出されている。夢の中だとどうしようもない。

    ←前のページ 現在 1/2 ページ 次のページ→

    1ページ目に戻る
    ▤ 目次ページに戻る


    お気に入りリストに追加 この作品を応援する

    応援ボタンを押す事で作品の★が増え、作者に「イイね!」を伝える事ができます。

    コメント

    作者紹介

    この作者の人気作品

    小説 ホラーの人気作品

    続きを見る