upppiは縦読みコミック(タテコミ)・イラスト・小説が無料で楽しめるサービスです!

ようこそ!ゲストさん
シリーズ:走馬灯
閲覧数の合計:768

作品を編集する

  • シリーズタイトル・ジャンルの修正
  • この章を改訂する
  • この章を削除する
  • シリーズに作品を追加する
  • 表紙画像の変更

走馬灯

作者:風呂助

  • 無料作品 有料作品:¥0(税込) R18
  • 編集協力者:

    精一杯のおもてなし


    登録ユーザー星:4 だれでも星:0 閲覧数:768

    走馬灯 2368文字

     

     こんな話を聞いたことはありませんか?

     ああ、こんな話は聞いたことがある。旅人を快く迎えて、
    家の人は誰も、子供でさえ礼儀正しくて。あばら屋には、
    似つかわしくない、立ち居振る舞いに粗末ながらに。

     精一杯のおもてなし。

     しかし宿をとった旅人は誰一人、夜明けを拝めない。
    ある日、豪胆な武士が思うところあって、主君を失った折。
    出家して全国を雲水よろしく行脚し、この家に泊まった。

     だが家の人々の礼儀に、いまは没落したものの以前は、
    それなりの名家である事を見抜き、それも悪霊の祟りだと。
    しからば、お坊は家人の礼に答えようと、一晩の読経をと
    申し出る。だが、それを苦々しく思う家人の顔に気付かず。

     深夜に、お経が終るまで、いかにして坊主を食らおうか。
    その相談を首だけが宙を舞って、外で相談している。
    誰もが一度は耳にする舞首の、有名な妖怪譚であろう。

     後はご存知のとおり、体を隠され激怒した首どもに
    襲われるが、豪胆な武士の気迫は失われておらず。
    ことごとく、法力と怪力にて妖怪は退治されていく。

     だから、それ以上は舞首に深入りするなと言ったのだ。

     坊主が立ち去る時、化け物一家の主人だけは怨念強く。
    袈裟の袖に食らいつき、そのまま果てた。干乾び木乃伊へ
    姿をさらにやつして、尚、首は離れない。噛み付いたまま。

     どこを舞っていたのだろう。この首は。

     死に面して過去の想いが、夢の如く走りゆくという。
    その灯火は、ゆらりゆらりと幽霊、人魂と違う。一瞬の事。
    一瞬で人生の刹那、全てを振り返る。閻魔帳を読む如く。

     いつかそれを走馬灯と呼ぶ。
    私が、化け物に食われる時、走馬灯はよぎるのだろうか。


     目が覚めた。昨晩、泊めてもらった、あばら屋だ。
    体は無事だ。噛み傷1つない。首も繋がっている。
    周囲に何かが歩き這い回った跡も無い。ぐっすり眠った。

     聞いた話と違うのは、何も無かったばかりでもない。

     無論、財布も荷物も手はついていない。そんな真似を
    するような人達では無いか。所詮は怪談など作り事か、
    夜迷いごと。精々が酔ったか、病で熱に浮かされ視た幻燈。

     お嬢さんが、朝餉の支度を報せに来た。何から何まで。
    下らない子供だましの、噂話でこんな良い方々を疑うなど。
    料簡の悪いのは私の方ではないか。まずは顔を洗おう。

     支度をして囲炉裏の間に行き、皆さんに挨拶をする。
    だが、昨夜の宿を求めた時とは随分と様子が違う。
    何か問題でもあったのか、浮かない表情だ。子供たちまで。

     この家は女性ばかりしかいない。子供も女児だけだ。

     どうかなさいましたか?と、訊いてみた。他者の家庭に
    嘴を突っ込むのも失礼だと思ったが、これほど親切を頂き
    はい、左様ならでは、どうにも気がかりである。

     男手で何か手伝えないだろうか。近づいていく距離感。

     何でもありません。今日は朝の釣果が無かったので、
    魚をご用意できずに申し訳なく。どうしても私を立てる。
    どちらかと言えば、旅のお方こそお顔がすぐれぬご様子。

     昨夜は眠りが悪う御座いましたか。


     そうなのだ。ぐっすり寝付いたのは明け方近くである。
    床に入ってから、経も読めず、武芸の嗜みもないが、
    私は舞首が走馬灯を見ながらに、成仏せずに彷徨うと。

     何を視て、首は宙を舞うのか。体から離れるのは何故か。
    食らった命を味わいたいのだろうか。空腹を満たすでなく。
    舞首の脳髄を満たしたいのか。それが為に食らうのか。

     舞首の餌食は、旅人の走馬灯ではないのか。

     だとしたら。
    私は視たい。私が食らいたい。
    舞首自体の走馬灯があるならば、視たい。覗きたい。

     味わいたい。一瞬という味わいを。
    飛び回る悪夢のような永い時間を濃縮させて。

     吸いたのだ走馬灯を。毎晩、化け物が体を離れる時に
    知り得たその全てを掠め盗りたくて、ここへ来たのだ。
    その為に、ここの場所を探し歩いたのだ。


    「で、お客さんは舞首の走馬灯を視に来たのかい。
    先に言っておくが、お代は後で結構。しかし値は高いよ。
    構わぬのか。幾らでもと申すか。金子とは申しておらぬ。
    お代は、旦那の走馬灯と引き換え。よいかな。」

     私の生涯など白紙のようなモノだ。何も無い。
    何もしていない。少なくとも、妖怪よりは無味無意味。

     1つ1つ捕まえて食らおうと思っていた。
    昨夜は奴らも、寝ないで待ち構えていたかもしれない。
    だが階下で蠢く気配は消えなかった。互いに様子を伺い。

     気味の良い、緊迫だ。どちらが記憶を吸われるのか。

     記憶?

     私は、どうやってここへ来たのだ。あの煙草屋の婆さん。
    物知りだと聞いたが、何故ここを知っていたのだ。

    「どう致しました?食がすすみませんようで、
    お口に合いませんでしたでしょうか。」

     あ、いえ。そうでは御座いません。少々、考え事を。
    とても美味しいですよ、この……。この……。御御御付の
    貝でしょうか、これは?味が、食べなれない味で不思議な。

    「怪です。ここらの浜ではよく舞い飛んでいます。」

     そうなんですか。活きが良いのですね。

    「息はしていませんよ。貴方様がここへ来られた時から。」

     何の冗談ですか?

    「お支払いになったのでしょう。対価を。ですから、
    貴方様も、お覚悟なさって下さいますように。」

     覚悟とは何をですか?何を言ってるのですか?

    「首は昼間は飛ばしませんように、お願いしたいのです。
    父は大昔に、旅の僧侶に食いついたまま戻りません。
    ですから、貴方様に残って頂きたい。そういう覚悟を。」

     純白に真っ白だ。全て白い。憎らしい程に白い。白。

     私が手に持ったお椀を見た。御御御付の入ったお椀を。
    お椀を持った私の首がない体を。天井付近から。

    「昨夜の貴方様の走馬灯、何もない真っ白でした。
    さぞかし、無味乾燥でいらしたのか。つまらない男。」

     そうではありません。今夜から私は走馬灯を集めます。
    ここまで聞いて頂いたので、舞首の家へおいでなさい。
    さぁ。どうぞ眠るだけで、すぐにこちらへ来れますから。

     お経は禁止ですがね。よく聞くような話でしょ?

    ←前のページ 現在 1/1 ページ 次のページ→

    1ページ目に戻る
    ▤ 目次ページに戻る


    お気に入りリストに追加 この作品を応援する

    応援ボタンを押す事で作品の★が増え、作者に「イイね!」を伝える事ができます。

    コメント

    作者紹介

    この作者の人気作品

    小説 ホラーの人気作品

    続きを見る