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シリーズ:スイーツ文庫『この恋は復讐から始まった』
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スイーツ文庫『この恋は復讐から始まった』

作者:スイーツ文庫

  • 無料作品 有料作品:¥0(税込) R18
  • 編集協力者:

    女恋愛詐欺師VS強豪イタリアンオーナーシェフ。イタリアンレストランを舞台にした、切ない復讐ストーリー。


    登録ユーザー星:4 だれでも星:11 閲覧数:2042

    スイーツ文庫『この恋は復讐から始まった』 80834文字

     


    第1回  

     確かなものなんて何ひとつない。
     所詮(しょせん)、信じられるのは自分だけ。
     世の中なんて、欺瞞と欲望の吹き溜まり。
     それを逆手にとって、利用して何が悪いの?
     親はとうに失くした。
     男も愛も信じない。
     お金やブランド物などの、豪華な装飾品は嫌いじゃない。
     だけど一生の内で手の中に残るものなんて、たかがしれている。
     だから結局のところ、信じられるのは自分だけ。
     

    「決めた! これにするわ!」
     振り返った私がきらきらした目で見つめると、傍にいた男は鼻の下を伸ばして、そうかそうか、と頷いた。
    「だってとっても可愛いんだもん、このバッグ」
     上目遣いに見つめると、青い鼻の下がだらしなく伸びて、しまりのない顔がますます緩む。
     なんてみっともないのだろう、と内心侮蔑しつつも、私はそんな事おくびにも出さない。
     高級ブティックが立ち並ぶ通りにある、豪華で洒落た店。ここはブランド物を専門に取り扱う店で、店内はいかにも高級感の漂うゆったりとした広さと造りで、高い天井からはシャンデリアが吊るされ、まばゆいほどの明るさに包まれている。私は店員に頼んで、そのバッグを取って貰って壁一面の鏡に映った自分を見つめる。
     大きな瞳に、こぢんまりとした愛らしい顔立ち。スラッと伸びたスタイルのいい手足に、ショートボブの明るい髪。やや童顔に見られる顔を、研究して大人っぽく見えるメイクで整え、甘いながらも知的な匂いを漂わせている。
     私、黒沢純(くろさわじゅん)は、一言で言うならば、いかにも男受けする風貌をしている。
     性質が悪い事に、私はそれを十分熟知していながら、鏡の前で可憐にくるりと一回りして見せる。もちろん愛嬌を振り撒く事を意図しながらだ。
     まだ二十四という若さだが、日々のスキンケアやエステだけは欠かさない。常に美を意識しているおかげで、街ですれ違う男は皆一様に振り向く。
     これは私の努力の賜物。
     そして、これが私の最大の武器であり、私の商売道具でもあるのだ。
    「じゃあこれを」
     男が店員に指し示すと、店員がカードを持ってレジへ向かう。
     金額にして、六十万ちょっと。
     まいどあり、と私は心の中で唱えつつ、嬉しそうに満面の笑顔で男の腕に飛びつく。
    「ありがとう! でも、いいの? あんなに高いのに……」
    「いいんだよ、そんな事! 気にしないで! 純ちゃんは可愛いんだから、そんな顔しないで。喜んでくれると嬉しいよ」
    「やだ~もう、おだてても何にもならないよ」
    「そうそう、その笑顔が好きなんだから」
     なんて陳腐で鳥肌が立つ台詞だろうと思いつつ、内心ほくそ笑みながら、私は殊勝な態度で男に「ありがとう」と礼を言ってはにかんで見せる。
     男の鼻の下がまた一段と伸びた。その内、下がりすぎて鼻から下が伸びきって顎(あご)が外れるのではないだろうか。まあ、知った事ではないが。
     高級ブランドのロゴの入った紙袋を手に、私は男の腕に絡みつく。満足気(げ)にやにさがった男と共に、夜の街を優雅に闊歩する。
     ボディータッチは必須。
     相手の気を引く手管はお手の物だ。
     一年前に仕事を辞めてからずっと、私は働きもせずのらりくらりと生きていた。
     今の生業(なりわい)はさしずめ、女恋愛詐欺師といったところか。
     結婚詐欺師を「赤サギ」と呼ぶなら、私の場合はさながら「ピンクサギ」とでも言えばいいのか。
     容姿を武器にして、偽りの愛で愚かな男どもを弄(もてあそ)ぶ。相手だって、下心ありきなのだからお互い様。若くて綺麗な女を連れて歩くだけでステイタスにもなる。普段なら絶対相手にされない容姿なのだから、尚(なお)の事だ。
     世の中はギブアンドテイクで出来ている。
     持っている人間から金を貰って何が悪い。
     血液が血管を通って体内全てに循環して巡っていくように、世の中の金も効率よく循環させてあげているのだ。脂肪を溜め込んだ恰幅親父の肥満腹のように、秘められた眠っている金を引き出して世の中に戻しているのだ。世直しの一環として、感謝して欲しいくらいである。
     もちろん、ちゃんと相手は選んでいる。
     狙ったカモは逃がさない。
     女に免疫がないタイプは金はある。そしてすぐにその気になるので扱いやすく、その分騙しやすい。もてなくても、守銭奴は警戒心が強いので時間をかける。少しばかりの安心感を与えるためにも、数回に亘(わた)り借りた金を返して信用を勝ち得てから、抜群の演技力で徐々に巻き上げて行く。遊びと割り切って付き合う事のできる大人の男性は、何も知らない無害な振りをして可愛がられるように仕向ける。
     甘えたり弱みを見せたりして、相手の懐に潜り込む。そしてその場その場によって、臨機応変に都合のいい女を演じるのだ。
     これが私の生きていくための知恵であり、私のモットーである。
    「ねえ、これからどこに行くの?」
     上目遣いに窺(うかが)うと、男が一瞬だけ怪しく目を光らせた。
    「ううん……、どこへ行こうか」
     一瞬沈黙が降り、私は引っかかりを覚える。
     ウインドーに映る私達の姿は、どこか浮いていて不釣り合いにも思える。年齢も、立場も、性格や価値観も全然違うのに、こうして腕を組んで歩いているのがいささか滑稽に思えた。
     きっと周囲から見ると、私達は異色のカップルに見えているのだろう。だがそんな事は気にしない。これは恋愛沙汰ではなく、私自身の金銭が絡んだ死活問題なのだ。
    「とにかく食事でもしよう。いい店があるんだ」
     人間の心理として、嘘や言い訳を考える時に斜め右上を見る事が多いらしい。どこか後ろめたい事があるのか、男の目は泳いでいる。
     もちろん私もそれを見逃すようなへまはしない。これまで培ってきた経験と、こういう事に関してはあまり外れない勘が訴えてくる。
    「そっか。ねえ、じゃあもう一軒だけいい?」
     このままホテルのレストランにでも連れ込まれたらもの凄く困る。そのまま上の部屋を取ってあるんだ、なんて言われたらそれこそ逃げられないじゃないか。
     ここですぐに断ると警戒されるかもしれないし、とにかくしばらく時間を稼ごうと思った。
    「いいよ。今日はいくらでも買ってあげる」
     今日は、か……。
     どうやらこの男の頭の中では、私はすっかり「自分の女」になってしまっているらしい。勘違いもいいところだ。その上「釣った魚に餌はやらない」根性丸出しで、次からは期待できそうもない。
     それ以前に、興ざめもいいところである。
     この男も、そろそろ切り時かもしれない。
     引き際は見極めなければならない。無駄に引っ張ると面倒な事になりかねないので、軌跡を潰して足がつかないようにうまくすり抜けなければ。
     私の唯一のプライドは、一線を越えない事だ。
     体を求められたら、すぐに撤退する。いくらなんでも薄汚い禿げ親父に体を許せるほど、心は広くないし、プライドも捨ててない。
     それに妙な情を持たれても困る。痴情の縺(もつ)れで犯罪に巻き込まれる事も多いご時世なのだ。
     とにかく貰えるものは貰ったし、次に切り替えた方がよっぽど賢明だ。
     そういえば、家を出る時に電気料金の督促状が来ていたはずだ。このバッグをブランド物専門のリサイクルショップに売れば、せめて半額くらいの値段にはなるだろうし、当面の生活には困らないだろう。
     頭の中で算段していると、タイミング良く携帯電話が鳴る。内心しめしめと思いつつ、私は男に謝りながら電話に出るために男から離れる。
    「ごめんね、父からだわ」
     嘘っぱちもいいところだが、男の立場からして父親の存在というのは脅威らしい。男はあっさりと引いてくれた。
    「ああ、もしもし? ええ、もちろん。すぐに向かうわ」
     そうして物陰に隠れて電話に出つつ、私はそそくさと男から逃げるように別の通りでタクシーを捕まえた。それに乗り込み、心の中で舌を出したのだった。

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    • スイーツ文庫
    • 作品投稿数:17  累計獲得星数:223
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      スイーツ文庫:http://sweetsbunko.jp/

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