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シリーズ:鏡のなかの裏腹
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鏡のなかの裏腹

作者:フジ

  • 無料作品 有料作品:¥0(税込) R18
  • 編集協力者:

    美形な高校生の武藤は、地味なクラスメートの大塚に想いを寄せている。だが大塚はノンケで、武藤の気持ちを知らずに「彼女がほしい」と発言し、二人はすれ違って行く。そんなとき、大塚は中学時代の友人と合コンに行くことになり……。


    登録ユーザー星:2 だれでも星:5 閲覧数:905

    鏡のなかの裏腹 23842文字

     

     俺がまだ幼かったころ、とても大好きな友達がいた。
     彼は賑やかな教室に霞むようにおとなしく温和な少年だった。印象が薄く、とかく軽視されがちで、いつもクラスの中心にいた俺とはなにもかもが正反対だったけれど、俺たちはいつも一緒にいた。
     きっかけは席替えだった。
     俺はつるんでいた連中と一人だけ席が離れて不機嫌だった。そんな俺の視界に、鈍い動作の少年がのろのろと入ってきた。
     前の席に荷物を置いたその少年は背が高く、それが苛立っていた俺の神経に触れたのだと思う。椅子に座ろうと彼が腰を落としかけたところで、俺はその椅子を横に蹴り倒した。ガタンという音と「わっ!?」という間の抜けた声が上がったのが、ほぼ同時。
    「こら! なにやってるの!」
     咎めた女教師に舌を出す。床に尻餅をついた少年が、ぎこちない仕草で俺を振り返った。
     ――泣くか怒るかどっちだろう? 泣くだろうな。とにかくおとなしい少年だった。
     しかしその次の瞬間、俺は思わぬものを目にすることになった。狼狽の色を顔いっぱいに浮かべていた彼が、ごく薄くだが俺に向かって微笑みかけたのだ。
     彼はすぐに転がった椅子を立て直して席についてしまったが、俺は少年の背中からいつまでも目を離せなかった。
     その日から、俺は執拗に彼につきまとうようになった。
     地味で目立たない彼のような生徒を、俺は馬鹿にしていたはずだった。けれどそんな感情も吹き飛んでしまうくらいに彼の笑顔は魅力的だったのだ。
     だけど、結局俺たちは対等な友達同士にはなれなかった。
     微笑みへの好感も慣れるうちに薄れて、俺はやがて彼を自分の持ち物のように扱うようになった。彼も乱暴者の俺に逆らう勇気はなかったらしく、俺たちの力関係はどんどん極端になっていった。
     けれどその王様と家来のような関係もすぐに終わった。地味ながら整った顔立ちをしていた彼を、容姿の愛らしさとそれにそぐわぬ気の強さで知られていた少女が見初めたのだ。
     彼女は無邪気な高慢さで彼を俺から奪い取っていった。彼は彼女のものなのだと、そう周囲が認識するまでさして時間もかからなかった。
     最初は少女に向かっていた苛立ちは、次第に彼のほうへと移っていった。あの女に迷惑してるならはっきり言ってやればいいのに。いくら積極的な性格じゃないからって、なんて度胸のないやつなんだ、と。
     でも少年が頼ってきたら、少女を追い払ってやってもいい。耐えられなくなったらきっと彼は俺のところに来る。それまでは自分で少女を拒めなかった罰に無視してやろう。そんなふうに思っていた。
     けれど待てども彼は俺を頼ってはこなかった。気がついたら、会っても言葉を交わさないのが普通になっていた。
     そのときになって俺はようやく悟った。彼は彼女よりも俺のことが嫌いだった。俺との関係を断ち切ることが、彼が俺と付き合うようになって初めて見せた自分の意思であり、積極性だったのだ。
     心臓が凍ってしまったように悲しかった。
     友達だった日々が嘘のように、それから二度と俺と彼が会話を交わすことはなかった。やがて季節が変わり、クラスも変わった。風の便りに、彼がどこかへ転校していったことを知った。

    〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


     こんこん、とノックをするような音が耳朶を打ち、武藤は浅いところでまどろんでいた意識がゆっくりと持ち上がっていくのを感じた。
     机に突っ伏していた顔を上げて、乱暴に瞼を擦り、こじ開ける。ぼやける視界の中心に長身の人影が立っていた。
    「おはよう。もう授業終わったぞ」
     もう一度軽く机を拳で叩いて、大塚は薄く微笑んだ。
    「……腹減った」
     伸びをしながらそう答える。欠伸交じりの間の抜けた声がおかしかったのか、大塚は今度ははっきりとした笑声をあげた。
     次第に明瞭になってきた視界に映るのは、目に馴染んだ教室だ。五十分間の苦行から解放された生徒たちが思い思いに移動している様子は、昼休みの教室のそれだった。
     弁当の包みを持って移動してきた大塚は、武藤のすぐ前の席の椅子をくるりと向きを変えて拝借した。
    武藤も机の脇に掛けてあったポリ袋を取り上げる。今日のランチは、登校途中にコンビニで求めたサンドイッチだ。
    「大塚の弁当、今日もうまそうだな」
     向かい合って座った彼の弁当箱を覗き込むようにしてそう言った。男子高校生らしい愛想のないデザインの大きな弁当箱には、母親の丹精を思わせる彩り豊かなおかずが詰まっている。
    「食っていいよ。ただし、食べすぎるなよ」
     慣れた手つきでサンドイッチの封を切る武藤に、大塚が指先で弁当箱を押して言った。近い位置に寄せられたそれに武藤は破顔して、
    「まじ? 大塚やさしー」
     さっそく弁当箱に手を伸ばした。
     こんなやり取りをしているものの、実は毎日お決まりの光景だ。一月ほど前、「いつも同じようなコンビニ弁やパンばっかりで飽きないのか?」と尋ねた大塚に、武藤が「べつに。慣れてるし、他に選択肢もないしな」と答えた日の翌日から、大塚の弁当箱のサイズが一回り大きいものに変わった。大塚は押し付けがましいことは言わないが、不摂生の友人を思いやってくれていることは明白だ。
    「うまいなー、大塚の母ちゃんの唐揚げは絶品だね」
    「肉ばっかり食うなよ、俺のぶんもあるんだから」苦言めいたことを言いながらも、大塚の表情は穏やかだ。
     ごく親しい友人同士といったやり取りのふたりだが、彼らは一見あまり接点のなさそうな外見をしていた。
     武藤が華やかに垢抜けたいかにも女好きのしそうな美形であるのに対し、大塚は精悍な顔立ちで身長だけは武藤よりも高いものの、地味な男だった。けれどふたりは至って親しく対等な友人だ。
     大塚は世話焼きで、「野菜も食べろ」と大根の煮付けを突き出してくる。武藤は箸に挟まれたそれを指先でひょいと摘んで口に運んだ。
     武藤は指の腹についた煮汁を舐め、それからすこし顔を赤くした。大根を取るときに、指が大塚の箸の先に触れたのだ。
    「……なあ、あとでさっきの時間のノート見せてな」
    「駅前のコンビニでコピーとるんだろ?」
     だったらそのときでいいじゃん、とのんびりした口調で大塚が言う。武藤は笑って頷いて、彼と当たり前のように帰路を共にできる幸せをサンドイッチと一緒に噛みしめた。


     一人暮らしの部屋に「ただいま」と呟く。応える声はもちろんないが、武藤の心は浮き立っていた。
     万年床の布団にごろりと転がり、鞄の中から一枚の紙を取り出す。大塚にコピーさせてもらった現国のノートだ。すこし罫線からはみだしがちの、綺麗でも汚くもない文字たちがひどく愛しく思えてしまう。
     表向きは親しく対等な友人同士なふたりだが、武藤のほうは大塚に特別な感情を抱いていた。
     高校に進学して同じクラスになってすぐに、武藤は大塚を好きになった。
     体育の授業で彼と同じグループになったとき、初めて大塚を間近で見て、武藤は「あ、ヤバいかも」と思った。目立たなくて印象も薄いがよく見ると整った顔の男。やばい、めちゃくちゃ俺の好みだ、と。
     そしてその予感の通り、武藤はすぐに大塚に恋をしてしまった。いつのころからか、このタイプの男を見るとどうしても惹かれてしまう自分を武藤は自覚していた。
     女には興味がない。武藤が興味を持つのはおとなしい男だけだ。
     自分から積極的に話しかけて、今の関係を勝ち取った。ノンケ相手に仲良くなったところでどうなるわけでもないが、彼と一緒にいられれば嬉しかった。大塚はいいやつだ。好みのタイプだということを抜かしてもそれは変わらない。
     恋人にはなれなくても、友達として傍にいられるだけでもいい。そう自分に言い聞かせて、武藤はコピーをじっと見つめた。
     愛用している百円ショップのシャープペンを持つ大塚の節榑立った指を思い出す。あの指がこの文字を書いたのだと思うと、コピーでもそれが手元にあることが嬉しい。
    「誤字、多いよなぁ」と思わず口にする。たった一枚のページに、三カ所も誤字を塗りつぶして訂正した部分がある。
    (……ごめん、大塚)
     ノートのコピーに唇を押し付ける。心の中で大塚に詫びて、武藤は彼のあの節榑立った指が自分に触れるのを想像しながら自涜した。大塚が自分の名を呼ぶ声を思い出す。

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    コメント

    • 文章力と構成力の高さに脱帽しました。
      私が読みたかった作品です!
      上から目線ですみません……ただ本当に魅かれる文体でした。
      • 2 fav
      • Re 返信

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    • コメントありがとうございます。
      お褒めの言葉、とても嬉しいです。自分で書いて自分で読むのでは、客観的に見てどうかを判断できずにいたので、コメントを貰えて、「読みたかった作品」「魅かれる文体」とまで言って頂けて、本当に嬉しく思います。

      フォローもありがとうございます!今まで、ただ投稿しかしていないのであまりフォロー等のシステムがわかっていないのですが、こちらからもフォローさせて頂きます!
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    作者紹介

    • フジ
    • 作品投稿数:17  累計獲得星数:42
    • 基本BL書きですが非BLもたまに書きます。
      よろしくお願いします。

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